第1章 祭りの夜
今度は私から口付けをせがむ様に顔を近づけると、杏壱さんは甘い声で囁くように耳元で告げた。
「なら、今夜は桃弥に抱かれてくれないか」
───── …え……今、なんて………。
意味が分からずに、頭が混乱する。
なぜ今、桃弥さんの名前が出てくるのだろう。
「………な、なにを、おっしゃっているのか、わかりません」
「そのままの意味だよ。君と桃弥に寝て欲しいのだよ」
「何故ですか?なぜ、私と桃弥さんが……っ」
口にするだけでも、ゾッとした。
十八の頃から杏壱さんだけを愛して、また愛されてきた私は他の男の人に抱かれるなんて考えられない。
「私達にはまだ子がいないだろう?」
夫が口にした言葉が胸に突き刺さる。
それは私自身も気にしていたことだった。
「私は君よりも二十五も上だしね。早めに対策をしてもよいと思ってね」
「だからと言って、なぜ桃弥さんなのですか!?私は杏壱さんとの子が欲しいのです!」
「それは私も一緒だよ。………けれど、四年も出来ないとなると、私に問題があるのかもしれない」
「それなら、私にだって………」
泣きそうな私を慰めるように、杏壱さんの大きな手が頬に当てられた。