第3章 鳥籠の庭
村の男達もいなくなった座敷牢で、私は縄で縛られたままの桃弥さんにそっと近いた。
「桃弥さん、杏壱さんの言うこと聞こ?じゃないと出られないわ」
「まだそんなこと言ってるのか!ここいにたら俺もお前も一生あいつの言いなりだぞ!今すぐ俺と一緒に逃げ───」
「それはできないの。私はここから出ていかない」
恐ろしい夫なのに、私は杏壱さんなしじゃ生きられない。生きていけない。
「だって、私が今更ここを出てどうするの?私には学もないし他に知り合いもいないのよ?」
「俺がお前を養うから、仕事なんかしなくていい絶対に苦しい思いはさせない必ず幸せするから……俺と一からやり直そう」
他の村の娘だったら、その真摯な姿にときめかない子はいないだろう。
だけど、私はもう深い闇と歪んだ愛に身も心もどっぷりと染まっていた。
「私、前にこの村を出ていこうなんて考えたとないって言ったでしょ?それは今でも変わってないの」
─── だって。
「杏壱さんといたら食べる物にも困らなくていいの。大きなお屋敷で暮らせるし、美味しいお菓子も食べれて、綺麗な服だって着せてもらえる。周りも私のこと『奥様、奥様』ってもてはやしてくれるの」
そうこれは、私が自ら望んで選んだ道。
「私ねこの生活を手放したくはないの。そのためには、杏壱さんの言うことを何でも聞いて、あのおかしな望みでさえも受け入れる妻でなきゃいけないの」
縛っていた縄を解いて、茫然としている彼の頬をそっと指先でなぞる。
「こんな女で嫌になった?だけど、もう逃してあげられない。だって、私の幸せには杏壱さんと桃弥さんが必要だから」
私が一番大切なのは、安心で安全な場所。
ここにいたら、杏壱さんが私を守ってくれる。
私は私の幸せの為になら従順な妻になる。
だから、桃弥さんには堕ちてもらうしかない。
「ねぇ、一緒に赤ちゃん作ろう……桃弥お兄ちゃん」