第2章 少女の頃
「いや!」
「……。すまない…けど、お前が好きなんだ。父さんとの結婚が決まるずっと前から」
「そんなこと………」
今まで知らなかった。
けれど、こんなことをしてもいい理由にはならない、桃弥さんは好きだけれど杏壱さんとの好きとはまた違うような気がした。
「ごめんなさい……」
「………」
「私、桃弥さんとは行けない……」
杏壱さんを裏切ることが嫌なのもある。
けど、それよりも………。
「?こんなとこで何をしてるんだ」
口を開きかけた時、後ろから杏壱さんに声を掛けられた。
「忘れ物をしていたから後を追いかけてみれば、二人で何を話ていたのかな?」
「あ、そ、それは………」
「父さんと結婚すべきじゃないと引き止めていたのですよ」
「そうか。なら、お前なら相応しいと?いっそのことここで駆け落ちでもしたらどうだ?ねぇ、」
杏壱さんに見つめられて、どんな顔をしていいか分からず俯いてしまう。
桃弥さんが嘘をついてる?
いや、そうじゃないかもしれない。
けど、私は村を出ていくことはできない。
それは確かだった。
「桃弥、あまりを困らせないでくれないか」
杏壱さんに忘れ物の手巾を渡されて、肩を抱かれながらその場を後にした。
そのまま杏壱さんが私を家まで送ってくれて、その後二人の間でどんなやりとりがあったのかは知らない。
ただ、しばらくして桃弥さんが大学へ進学する為に村を出ていったことを聞いた。