第2章 少女の頃
一時間ほど穏やかな時間を過ごすと、私は帰宅の準備をして三久利家の門を出る。
「!! 」
帰り道の途中で、当時18歳だった桃弥さんに呼び止められた。
驚きながら後ろを振り返ると、突然両肩を掴まれる。
「お前、本気で父さんと結婚するつもりか?」
「え……突然、どうしたのですか?」
「あんな奴やめろ!俺と一緒に今からここを出るんだ!」
いきなりそう告げられて、考えが追いつかない。
そうしている間に手を握られて、どこかに連れて行かれそうになった所でハッして立ち止まった。
「桃弥さん何してるんですか!?離してください!!」
「いいから今は黙って付いて来い!これはお前の為なんだ!」
「い、嫌です!なんでこんな事するんですか!?桃弥さんは私と杏壱さんが結婚することが嫌なんですか?」
「ああ嫌だね!あんな自分勝手な冷酷な人間にお前を取られるのは!……クソ、なんでよりによってなんだよ」
大声で怒鳴られて、身体が萎縮する。
桃弥さんが何を言っているのか、理解出来なかった。
だって………。
「き、杏壱さんは…優しい方です」
「違う…違うんだ。それは今だけで結婚したら本性を表すに決まってる。そうなる前に俺と今すぐこの村を出よう」
「……む、無理です……そんなの」
私が戸惑っていると、不意に唇に何かが振れた感触がした。
桃弥さんの顔が近い。
口付けをされたのだと気付いた瞬間、思わず桃弥さんを突き放した。