第2章 少女の頃
それは私が杏壱さんと夫婦になる前、村の長に相応しい妻となるべく花嫁修業を受けていた頃の話だ。
その日も三久利家のばあやから色々と教わる為に、お屋敷へと来ていた。
とにかく三久利家の恥にならないようにと必死で、見劣りしないようにと励んでいた。
そんな不安でいっぱいの中で唯一、心安らぐ時間が私にはあった。
「よく頑張ったね。こっちへおいで」
「杏壱さん……!」
教育を受け終えると、必ず杏壱さんは私を部屋へと呼んでお菓子をくれたのだ。
「今日はさくら餅だよ。は餡子が好きだからきっと気に入るだろうと思って、町で買ってきたんだ」
「桃色のおはぎみたいですね……綺麗」
杏壱さんは私が食べたことがないお菓子ばかりをくれる。
キャラメルにビスケット、色とりどりの金平糖にうさぎの形をした和菓子、どれも村には無いものばかりで口にする度にその美味しさに胸をはずませた。
甘いお菓子を食べながら、杏壱さんとおしゃべりするこの時間だけが私の楽しみだった。
そういえば、幼い頃もお屋敷に遊びに来た私に他の子達に内緒だと飴玉をくれたのも杏壱さんだ。
今思えばあの頃からすでに私は、杏壱さんに惹かれていたのかもしれない。