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【東リベ】捨てられた猫【九井一】

第2章 懇願


「仕事を探すとしても、当面の生活はどうにかしなきゃいけないし、でも住所不定じゃそもそも話にならないでしょ」

かといって友人に頼るのは得策ではないと思う。
借金の有る無しに関わらず、親が飛んだことで何かが自分に降り掛かる可能性はあることを考えると、迂闊に人を巻き込めない。

「見知らぬ人間より身近な友人に頼るだろ普通」

「面倒をかけたくないの」

「他人なら面倒かけてもいいってか?」

「相手に利益があれば取引出来るかと思って、他人なら後腐れもないだろうし」

取引といえば聞こえはいいが、1歩間違えればただの奴隷でしかない。居候を条件に相手が何を望むか、その条件を飲まなければならないとき、自分はどんな不利益を被るのか。

そのリスクヘッジがまるで出来ていない。

一はあまりに無謀な行動に思わず光莉の頭を疑いたくなったが、ふと自分の過去を省みて口を閉ざす。

なりふり構わず、それほどに追い詰められているのか。それとも、ただの考え無しなのか。

「足元見られてろくでもねぇ条件で取引されたらどうすンだよ」

世の中善人ばかりじゃない、そんなことぐらい27年生きていれば学んでいるだろう。知らないならば余程幸せな人生だ。
一の質問に光莉は何か考える素振りを見せたが、それは一瞬のうちに苦笑となった。

「犯罪と自殺だけは困るけど、無給の家政婦とでもして貰えれば御の字よね」

「いや、食費とかかかるから無給とはいかねぇだろ」

自分でも問題はソコじゃない、というところに答えてしまった一だったが光莉はハッとした表情に代わる。

「それもそうか!...んー、うぅん...、そこは貯金崩して勘弁して貰う!これでどうだ!?」

「俺に言われても知らねぇよ!」

閃いた!とばかりに一に向き直ったが、語気強めに返され思わず唇を尖らせ不満を露わにしてしまう。
これは本当に同い年なのだろうかと疑問に思う程に、人を信じ過ぎている人物。一は自分とは違う人種に少しの尊敬と大いなる不安を抱く。

人を信じることができる、それは一種の幸せだ。
金が絡んだ上での信頼などいつ瓦解するか分からない。
その裏切りを察知して回避もしくは己が先に裏切ることで上手く生きてきた一からすると、そんな相手の裏側を考える必要がなかったのだろう光莉は周囲に恵まれてきたのだと分かる。
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