第2章 懇願
テヘッ、と軽く流した光莉だったが内心はそんなに軽く考えているわけではない。
本当に急な話だったから、事前に準備していたわけでもなければ貯金だってそんなに多くない。
当然、死活問題だ。
だからこそ、なりふり構わず生きることだけ考える。今日を凌がなければ明日は無いのだから。
「ちなみに親の携帯は繋がらず、実家はもぬけの殻でした」
「...」
たった1日で人生がガラッと変わってしまった光莉は笑うしかないのだ。それに気付いた一は思わず絶句した。普通では有り得ない状況に置かれた人間は時として突拍子もない行動に出ることはある、それが自身に冷たく扱われようとしがみつかせた要因なのかもしれない。
話してみれば混乱していた頭の中が整理され、一と名乗る目の前の人物にとっては迷惑以外の何物でもないと分かる。光莉は苦笑すると一に向き直り頭を下げた。
「だからと言って、私の事情に他人を巻き込むべきではないよね。一さん、すみませんでした」
「仕事は?」
「え?」
パッと見、20後半だろう。おそらく学生ではないはず。そうアタリを付けた一は疑問を持った。
仕事をしていたのなら、次の給料日まで貯金で凌げるだろう。1ヶ月、ホテル暮らしとなれば確かにお金は嵩むが今時ネカフェやカプセルホテルなど過ごす場所はいくらでもある。それより少し高くつくがセキュリティを考えればウィークリーマンションもある。
「失礼かもしれないけど、20歳後半?仕事してるならわざわざ野宿を選ぶまでもなくホテルでもネカフェでもあるだろ。次の給料日まで最長1ヶ月と考えれば貯金で問題ないんじゃねぇの?」
一は一般的な考えを口に出す。それが目の前の相手に当てはまるかは分からない、寧ろこれだけおかしな現状なら、まだ変な問題が複合的に発生しているんじゃないだろうか。そんな考えも頭の片隅にはあるが。
「年齢は27。貯金はそんなに多くないの、大卒で25まで一般企業で働いて、そこから自営業していた実家に戻った。一人暮らしに実家への仕送り、恥ずかしながら貯金もまともに出来なかった」
「27、俺とタメか。自営業はどうなったんだよ」
「親が飛んだんだもの、当然閉業」
自営業の経営不振による高飛び、言葉にはしないがそういうことなんだろう。子供としては親が生きているだけマシかもしれない。