第5章 初心者マーク
「秘書は結婚してるし子供もいる、そんな関係性にはならねぇ」
「...」
思い出す秘書の姿は結婚している上子供もいるなんて、とてもそうはみえないスタイルと美貌だった。
呆気にとられている光莉を前に一はしゃがみこんでポツリと呟いた。
「最初っからこうして話しておけば良かったんじゃねぇか、何してんだ俺は」
「そういえば突き飛ばされたなー、あの時」
「〜!悪かったって!」
慌てる一に光莉は思わず笑ってしまったが、ふと疑問が湧き「それにしても」と言葉を漏らす。
「たかだか男の人と歩いていたぐらいで怒るなんて...そんなに信用ないかなぁ」
「はぁ!?」
「?」
一の大きな声にビクリと肩を動かした光莉。肘置きを掴む一の手に力が込もったような気がしたが、何か失言したのだろうかと不安になる。
「...お前は?」
「ん?」
「俺が秘書と歩いているのを見て怒りは無かったのかよ」
そう聞かれた光莉はその時のことを思い浮かべる。
「...お似合いだなって思った。私じゃあんな風に歩けないなって思った」
「...お、おぉ?」
アプローチを間違ったか?と一は不安になるが、真面目に考える光莉を静かに見守る。
誘導尋問みたいだ。こんなことしなくても光莉に言えばいいだけだとわかっているのに。こうして聞いているのは臆病な自分のための保険だ。
「情けねェな...」
「一を支えられる秘書さんが羨ましかった。家政婦として一のこと勝手に支えてるつもりだったけど、実際はもっと有能な女性がいたんだって悲しくなって...」
表情が暗くなった光莉に一は完全に方法を間違えたことに気付き慌てて思考を遮る。
「光莉!悪ぃ、間違えた!」
「...一はそういう人がいても女を部屋で居候させられるんだなぁって...」
「!!?」
あらぬ方向へ走り出した話に一はパニックになる。
確かに傍から見ればそうなる状況だ、彼女がいれば言語道断な行動だろう。しかし、妻子もいなければ彼女もいない自分はなんら問題無い行動のはず。
「光莉...?」
「一を好きになるにはそういうの認めなきゃいけないの?」
「...そういうの?」
「私そんなの嫌。浮気とかするような軽い一は嫌い」
「はぁ!!!?」