第5章 初心者マーク
「俺は27年間の中で浮気なんかしたことは無ェ!!」
「でも付き合ってないのに女ってだけでキスできるくらい軽いってことでしょ!」
「それは...ぁあ!クソ!」
ぐしゃりと髪を掻き上げた一は息を吐く。長く吐いた後に顔を上げて光莉に視線を合わせるとまるで言い聞かせるようにゆっくりと言葉を伝えた。
「女だからじゃない、光莉だからだ。同意なしに手ェ出したのは本気で悪いと思ってる、ただ遊びじゃねぇよ」
真っ直ぐと見つめてくる一の瞳に光莉はドキリとする。手を振り払ったあの日の冷たい色はなく、熱を帯びたような真剣な眼差しに動けなくなる。誤魔化せない、誤魔化させないと言われている気がして期待と不安が入り交じる。
「光莉が好きだ、戻ってきてくれ」
「っ!...で、でも私には一に釣り合うものが無いし、経験値も低いし...」
「釣り合い?ンなもんどうでもいいだろ。経験なんて他で積むもんじゃねェ、お前の全部は俺が貰う。もちろん光莉の同意の上だけどな」
忙しなく膝の上で指を動かしていた光莉はポツリと呟く。
「お手柔らかにお願いします」
耳どころか首筋まで赤くなった光莉がそう答えると一は「努力するわ」と少し意地悪く笑ったのだった。