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【東リベ】捨てられた猫【九井一】

第4章 誤解と嫉妬



こんな綺麗な奥さんがいながら...
いや、まぁ強引に居候になったのは私からだからその点で責めることはできないか。

「お、奥様ァ?」

呆気にとられた一と女性が目を丸くした後、光莉の視線がチラチラと女性を伺うように向けられていることに気が付き一がまさか!と声を上げた。

「お前!?あいつは俺の秘書だぞ!そもそも俺は独身だ!独身じゃなけりゃ居候させねぇだろ普通は!」

「居候?会長、女性関係は注意するよう申し上げたはずですが...」

「...やべ、いや、家政婦みたいなもんだから別に何もねぇよ!」

秘書、と言われた女性は居候ということが初耳だったのかピクリと眉を動かして一に問いかける。その姿は呆れ半分警戒半分らしく問い詰めるか逡巡しているように見えた。

会長、秘書...

自分の生きてきた中でそんな肩書きなどを持つ知り合いはいない。住む世界が違うとはこういうことなのか。
それでも一の役に立てることができて光莉は自分の家事能力を誇れた。

「とにかく一度話がしたい」

そう言われれば光莉は頷く他ない。
こちらが勝手に誤解し、勝手に劣等感を感じていたのだから謝りたい。一の話は何か分からないが渡りに船だ、自分から簡単に会える相手ではないと分かった以上この機会を逃しては謝ることはおろか、目を見て話すことすら出来なくなるだろう。
それに、また忙しかったのか顔色が気になる。
具合が悪いのなら休んで欲しい、できる事なら傍で看病したい。光莉はそんな考えに苦笑した。

そんなこと言って私が一の傍に居たいだけじゃない。秘書の人みたいに仕事がサポート出来る訳でも無く、できるのは家事だけ。そんなもの家政婦を雇えば済む話だ、お金は掛かるが一にとっては何の問題もない話だよね。

迎えを寄越すと言われたが丁重にお断り...しようとしたが思い出した。自分は今、一のマンションの鍵を持っていないのだと。
時間が分かれば外で待つこともできるが、秘書曰くこの後外で人と会う予定が入っており終わり時間が不明ということだった。結局、秘書さんが差し出したスペアを受け取る他なかった。

「迎えを待つか、スペアで先にここで待つか選べ」

そう言われれば後者しか方法は無い。同僚の家に居候している身、そこに黒塗りのセダンが来るのは近所の目が恐い。
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