第4章 誤解と嫉妬
その言葉に答えるように同僚が指を動かすと画面にはいくつかの顧客が表示される。
「3件...あ、でも1件は別のグループが入るみたい。2件ともここから近いけど、私的には九井様のほうがいいかなぁ」
新人の自分に拒否権はない。呼ばれれば行く、同僚について行くだけだ。オススメだと言われたらそうなのだろうと思う。
同僚は予約内容を確認すると受諾ボタンをタップして光莉に向き直った。
「さて、それじゃ今日も頑張って励みましょー!」
どの予約を受け取るか決定したら次は準備に取り掛かる。各顧客によってニーズは多岐に渡り、光莉は同僚の指導の元、日々勉強の毎日だ。
道具の準備、ニーズの確認に注意事項の遵守。
どうやら常連らしい九井様の要望も然程特異なものはなく、他の顧客と変わらない内容だった。
いつも通りに仕事をこなすのみ、そう思っていた光莉は到着した先で嫌な予感がひしひしとしていた。
目の前に建つビルはどう見ても一のマンション。
だかしかし、このマンションの住人ともなれば私達の仕事を必要としている人も多いはず。光莉は「そんなまさかね」と思い直す。
「開いた、エレベーターホールはこっちね」
オートロックを解除した同僚は慣れた足取りで進んでいく。光莉もその後を追うと、つい先日まで見ていた光景が広がっている。