第4章 誤解と嫉妬
「綾瀬さんは知人でして、数日前から連絡が取れないので近況をご存知かと思いこの場を設けました。先日街中で彼女と歩いていた姿を見かけたのですが、彼女はまだ職安に?」
彼女でもない。かといって馬鹿正直に居候だと言ったところで未婚の男女が同居しているとなれば誤解を招く。
知人、友人であれば気にかけても問題ないだろう。
まだ職安に通っている、そんな返答を期待した自分は本当に自分勝手だ。
職安に通っているならばタイミングを合わせれば会える、仕事が決まったのならば俺がいなくても生きていけるだろう。けれど後者は光莉ともう会う理由は無いということだ。
勝手に怒って追い出した事実は変わらない、知り合いの居ない街に放り出したことに光莉が恨みを持たないはずがない。それは分かっていることだ。
それでも数日一緒に過ごした相手、一は自分も気付かぬうちに情を持ってしまったのだ。
「それとも仕事が決まったんですか?」
一の問いに男は首を横に振り「それが...」と続けた。
「ほぼ毎日求人を確認しに来ていた方だったのですが、ここ数日お見かけしていません。まだこちらで仕事を紹介していないので、バイトや派遣で仕事を見つけたとも考えられます」
そう、仕事を探すのに必ずしも職安だけが手段ではない。その事に今更思い至り一は頭を抱えた、今の世の中ネットで仕事を探す方が容易い。
「...住所は何処に置いていたんだ?」
所在が不明でも見つかる仕事は怪しい物も多い。実家の住所も既に無いとすると、職安の時は一のマンションに住所を置くこともできたかもしれないが追い出されてからはそれは難しい。
厳密に言えば、詐称になる。光莉がそれを分かってでも履歴書に住所を書いたとしても企業側はそこまで調べないかもしれないが...
「住み込みという手段もあります」
秘書が囁いた言葉に一は眉根を寄せる。
全て視野に入れて探すとなれば範囲があまりにも広すぎる。これでは手詰まりだ。
「光莉さん、次のお客様なんだけど」
光莉が顔を上げると同僚がスマホを持ってこちらに視線を向けている。キャンセルもしくは時間変更といったところだろうか。手招きされ近付くと画面を見るように促された。
「キャンセル、ですか。他の予約入ってましたっけ?」