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【東リベ】捨てられた猫【九井一】

第4章 誤解と嫉妬


光莉は元気なのか。
そう聞こうとした一は周囲のざわつきに気付き口を噤む。若くして起業し成功した一は独身、雑誌等のインタビューで必ずと言っていいほど質問されることだ。つまりは世間が気にする話題、この状況で一人の女性の名前を出すことは面倒なことになるだろう。

「聞きたいことがあるんだが、今のタイミングでは無さそうだ。改めて予定調整して欲しいんだが大丈夫だろうか」

そう言うと秘書が男に名刺を渡す。
あとは秘書がスケジュール調整をしてくれるはずだ、一は男が「分かりました」と答えたのを確認すると踵を返して車に乗り込んだ。

近いうちに光莉の無事は確認できるだろう。
少し話した限り、あの男は縋る人を捨て置けない人物のようだった、それならば光莉も寒さの中で野宿なんてことにはなって居ないだろう。そう考えてはみたものの一は己の行動の矛盾と身勝手さに我ながら呆れてしまう。

一時の感情で追い出したくせに、今更探しているなんて相手からすればいい迷惑でしかねぇよな。

自嘲した一は静かな車内で目を閉じる。然程遠くはない目的地まで何も考えずに頭を休めよう。考えたって今はどうしようもないのだから。

何故だろうか、最近疲れが取れない。




「綾瀬 光莉さん...えぇ、存じております」

名刺を渡して数日後、自身も勿論だが相手も忙しくすぐに日程の調整が出来ないままだったがようやく話を聞く機会が出来た。会長室のソファに座った男は唐突に名前を言われ面を食らったが、あっさりと頷く。

「綾瀬さんは数ヶ月前に来られてから私が担当しています」

「来られた?担当?」

光莉を知る人物である事を確認できたが想像していない単語が発され一は首を傾げた。背後に控えていた秘書が耳打ちで相手の正体を伝えてくると、一は自身の行動を省みて如何に失礼なことをしたのかと額に手を当てた。
相手の事をしっかり確認するべきだった。

「申し訳ない、取引先かと勘違いしていた。職安の方だったんですね」

仕事を探し職安に通っていた光莉。あの日、職安から出た光莉と、相手先へ向かう担当者はたまたま同じ方面だった為話をしながら歩いていたというのが真実だった。

聞けば分かることを聞かずに追い出した。俺は何をしてるんだ。
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