第4章 誤解と嫉妬
見知らぬ他人を突然居候させるなんて、通常考えられない。だから拒否された、そう思っていたが実はその他にも事情があったから拒否していたのかもしれない。
彼女がいたなら仕方ないことだよね、あらぬ誤解を招くだけだもん。
「でも、それならそうと言ってくれれば...」
無理を通したのは自分だ。けれど相手がいるならそこまで無理強いするつもりはなかった。他人の恋愛に茶々を入れて良いことなんてないのだから。
私がいなければ、体調を崩したあの日も彼女が看病していたのだろう。一にとって私の看病はありがた迷惑だったのかもしれない、そう考えると思わず苦笑してしまう。
卑屈すぎる。誰に何を言われたわけじゃないのに、ひねくれ過ぎた。
頭を振って光莉は今日の夕飯を考えながらスーパーへと足を向けた。
「は?」
「聞こえなかったか?出てけっつったんだよ」
珍しく早く帰ってきた一から言われた言葉に光莉は耳を疑った。聞き直したことにイラつきを見せた一は光莉がまだ見たことの無い表情をしていた。
普段、乱暴な言い方をしていてもどこか話を聞いてくれる余裕があった。今の一にその余裕はないと分かるほど怒りの表情が現れていた。
なんで?何があったの?
「私、何かした?」
聞きたいことはいくつもあるが、ピリついた空気に喉が渇いて上手く声が出せない。ようやく絞り出した質問にも一はピクリと眉を動かした程度で睨みつけるばかりだ。ギュッと手に力をこめるとガサリと買物袋が音を立てる。
「はじ...っ!」
ドンッ
伸ばした手を振り払われた衝撃で倒れ込んだ光莉を冷たく見下ろす一。息を飲んだ光莉に一は怒りを押さえきれないのか震えた声で「出てけ」と告げた。
何をしてこれほどの怒りを買ったのだろうか、理由は不明でも分かることはある。
家主が出ていけと命じたならば出ていく他ない。
これからどうすればいいのか、なんて一には関係の無いこと。少し距離が縮まっているような気がしていた光莉は己の思い上がりに至ってカッと頬に熱が集まる。恥ずかしい、なんて甚だしいのだろうか。
目の前に立つ一はこんな表情をする人物だとすら知らなかったのに。
「...お世話になりました」
頭を下げた光莉の視界に見えた鞄。ここに来た時に少ない私物を詰めていたものだ。