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【東リベ】捨てられた猫【九井一】

第4章 誤解と嫉妬


朝チュン・・・
それは男女が一夜を過ごし、朝を迎えること(光莉脳内辞典より)

目覚めてみれば、隣に一はおらず自分だけがぐっすりと眠っていたという事実。一はどうやら仕事に出てしまったらしく、リビングにもどこにもいなかった。

家政婦の役割って何?

ソファに座って光莉は自問自答を繰り返していた。

世話をやいていたはずが、主人より爆睡して朝ごはんを作るどころか見送りもしなかったって?やばい無能具合じゃん私。

ハハハと乾いた笑いがもれる。こんな状態ではいつ家政婦を解任され放り出されるかも分からない。
危機感を覚えた光莉は、とりあえずルーティンをこなしつつ夕飯のメニューを考えて現実逃避をすることにしたのだった。



「会長、次の予定ですが...」

一は隣を歩く秘書から予定を聞きながら車へと向かっていた。昨日の看病のおかげが、いくらか体調は良くなっているものの早く帰りたい一心でスケジュールを調整させた。その結果外回りがややタイトになってしまったのは仕方の無いことだろう。

栄養剤でも買おうか、そう思って周囲を見回すと薬局を見つけるよりも先に予想外の光景を見つけて目を見開いた。光莉と男が談笑しながら反対車線側の歩道を歩いている、知り合いはいないそう言っていたはずだ。
ナンパの可能性も考えていたが、初めて会った時にはナンパを嫌がっていた。

そもそも知り合いがいたなら、俺の家に居候する必要なんてねぇじゃねぇか。まさか未経験ってのも...

やっぱり裏切られたのか、そんな考えが頭を巡り拳をグッと握る。秘書の急かす声に光莉から視線を外した一は再び車へと足早に向かった。

帰ったら追い出そう。遅くなる前に意地でも早く仕事を終わらせよう。



「じゃあ、またお伺いしますね」

光莉は隣を歩く男に軽く会釈すると、男の向こう側、反対車線側の歩道に女性を伴って足早に歩き去る一の姿が見えた。

「一...?」

そういえば、と光莉は一が何の仕事をしているのか知らないことに今更ながら気が付いた。横を歩く女性も一と同じくスーツを着こなし雑踏を歩いていく。

綺麗な人...

同僚だろうか?それとも取引相手とかだろうか?
まさか恋人なのだろうか?そうか、だから追い出そうとしていたんだ。
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