第3章 家政婦の役割
蒸しタオルと飲み物を手に部屋へ戻ると、着替え終わった一がベッドへと潜り込んでいた。声をかければ返答があるのでひとまずは落ち着いたようだった。
「ん...?」
薄暗い部屋の中目を覚ました一はゆっくりと身体を起こす。身体の怠さは残るものの先ほどの目眩は回復したようだ。喉の乾きを覚えた一はサイドテーブルのライトが薄く点いていることに気付く、普段は点けたまま眠ることは無いので不思議に思ったがライトの下に置かれた物を見て何故か安心した。
あいつ、わざわざ飲み物買いに行ったのか。
スポーツドリンクを取ろうと手を伸ばした所で、ベッド横で何かが動き「うぉっ!」と一は思わず声を上げた。
その声にその物体もビクリと跳ねる。
「わっ!?...寝ちゃってた!あわっ!?」
目をこすった光莉は何で目が覚めたか思い当たりガバッと立ち上がった。ブランケットにくるまりベッド横で丸まっていたからか関節がギシリと軋み、危うく倒れそうになったが慌ててベッドに手を付き難を逃れた。
「一!良かった、体調はどう?」
「光莉...?あ、あぁ。目眩は治まったけど...」
看病されたのはいつぶりだろうか。一人暮らしで身内も近くにはいない一にとって、こんな風に寄り添って看病されたのは幼い頃が最後だった気がする。
普段なら無機質で冷たい部屋が、人一人居るだけで暖かく感じる。体調不良で気持ちも弱っているからだろうか、他人が部屋に居ることへの不快感が想像以上に少ないことに一は驚いていた。
「2時かぁ、何かスープでも飲む?胃が空っぽなのは良くないよね」
壁掛けのデジタル時計は確かにAM2:00を過ぎたくらいだ、取りかけていたスポーツドリンクを渡され口をつけた一は部屋を出ていきかけた光莉の腕を掴む。
「夜中にはモノは食べねぇ、いいからここにいろ」
「そう?...もう大丈夫なら私ソファで寝るよ、一は自分の部屋に人が居るの嫌でしょ?」
確かに他人が居るのは嫌いだ。
けれどそれ以上に今は誰かに傍にいて欲しい。
...って、いやいや!これじゃ俺はただのガキじゃねぇか!
一は自身の中の葛藤をどう結論づけるか考えていたが、光莉があっさりと解答を出てきた。
「体調悪いと心細くなるよねー。一が気にならないなら今日はここに居るよ」