第3章 家政婦の役割
「何か欲しいものあったら言って。家政婦だもん、なんでもするから」
家政婦だから。
その言葉に一はなぜだかショックを受けた。家政婦として置いてやると言ったのは一であり、その役割をこなしてこその居候だったはず。
なのに何で...
「なんでも?じゃあ...」
「うん、なんで...もっ!?」
腕を引かれ倒れ込んだ先、ベッドに投げ出された光莉は突然のことにバクバクと鳴る心臓を手で抑える。
「な、な...!危ないじゃん!なにしてんの...っひ!?」
慌てて体を起こしかけた光莉だったが、覆い被さるように一が体勢を変えたためピタリと動きを止める。
顔が近い、思わず短く悲鳴を上げた光莉は慌てて口を押さえた。
初めて見た時も思ったが、一の顔は光莉のタイプど真ん中だ。どタイプの顔が目の前にあることほど心臓に悪いことはない。
「寒いから一緒に寝ろ」
青くなったり赤くなったりと顔色が忙しい光莉の耳に入った言葉は思いのほか普通だった。
やっぱり心細いのだろうか、そう思い頷けば胸に顔を埋める一。
母性をくすぐられた光莉はおずおずと一を抱き締めれば少し冷えたスウェットが手のひらの熱でじんわりと暖かくなっていく、このままゆっくり朝まで眠れることを祈りつつ布団を被る。
添い寝って家政婦の役割なんだろうか。
眠りに落ちる前にそんなことを考えていたような気はするが、一の体温が思いのほか心地好い。これは役割ではなく役得だ。そんな風に納得した光莉はそれに甘んじるようにほんの少しだけ強く一を抱き締めて眠りに落ちていった。