第3章 家政婦の役割
ピー、という機械音が鳴るとロックが解除される。
ノブを引いてカチャリと扉を開くと暖かい空気とともに、ふわりといい匂いが運ばれてきた。
「あれ、一?今日は早かったね」
扉の開く音に気付いてリビングから顔を出した光莉は足早に玄関の一に走り寄る。疲れからだろうか、顔色が余り良くない一からコートとカバンを受け取る。
「ご飯、食べれそう?」
思いのほか真面目に家政婦をしている光莉に一は驚いていた。毎日早くに帰れるわけではないことは伝えているが、律儀というか真面目に食事を作ってテーブルに置いてあることが普通になっている。
「いや...悪ぃ...」
短く返答をした一はリビングのソファにドサリと倒れ込む。まともな食事も取らず働き詰めで体調が崩れたのだろうか、目眩のような揺れを感じ眉間に皺を寄せる。
「一、ソファじゃなくてベッドで寝た方がいいよ。動ける?」
問いかけてはみたものの、一からの返答はない。光莉はソファにかけておいたブランケットを一にそっとかけると、物音に気を付けつつ家事をこなす。
こまめに様子を見てはいるものの、身じろぎ一つしない一に光莉は近付いて覗き込んだ。
息はしてる。頭痛いのかな。
少し失礼な確認をしつつ、軽く頬に触れるとひやりとした体温に光莉は驚いて手を離した。冷汗で冷えているのだろう、慌てて蒸しタオルを作り目元を覆ってやると少し体の強ばりが弱くなった気がする。
ホッと息をついた光莉はスマホを触ると、財布を持って部屋を出た。
症状が分からないけど、スポーツドリンクくらいなら外の自販機で買えるよね?
目的の物を手に入れた光莉が部屋に戻ると、一はソファで身体を起こしていた。慌てて近くに寄るがやはり普段よりも反応が鈍い。
「一、とりあえず着替えてベッドで寝たほうがいいよ」
「...クソッ、手ぇ貸せ」
悪態すらも弱々しい一に、本格的に体調不良であることが分かる。少しは良くなったのだろうか触れた手に伝わる体温は暖かさが戻ってきているみたいだ。
「熱は無いみたいだけど、頭が痛いの?」
「...うるせぇ、目眩がしただけだ」
目眩に冷汗、平熱だからやっぱり疲れかな。
光莉は一をベッドに座らせると、着替えを手渡し部屋を後にする。