第3章 家政婦の役割
晴れて一の家に居候が実現して数日。
光莉は一つの事実に気づいた。
帰って来る時間が遅い。
仕事が忙しいらしいが、ご飯を作っても掃除をしても何ら一の役に立っていないような気がする。唯一役立っているのは洗濯くらいだろうか。けれどそれも必須ではないようだ、と気付いたのは昨日。
マンションのコンシェルジュとロビーですれ違い挨拶をした時だった。
情報力なのか一から連絡が入っているのかは不明だが、光莉が一の部屋で生活していることを知っていたらしい。いつもの時間にクリーニングが置いてなかった、と聞かれて普段はコンシェルジュにクリーニングを頼んでいたと知った光莉は部屋に戻ったところで思った。
「そもそも、家政婦いらないじゃん」
聞けば、ケータリング等のサービスもあるらしくコンシェルジュ=家政婦といえる。
部屋の掃除も業者に頼めば自分で家事一切をする必要はなさそうだ。2LDKであることにプラスして物が少ないからか掃除機をかけることも然程苦にはならない。
というか自動ロボット掃除機あるし...
チラリとリビングの入口に目をやればソレは充電ステーションに収まっている。
すごいな金持ちは。そんな事を考えていると携帯のアラームが鳴った、画面には夕飯を作る時間を知らせるメモが表示されていた。
「役立ってるかは不明だけど、とりあえず役割はこなさないとね」
ご飯を作っても、帰りが遅い一は食べずに寝てしまうことも多い。それでも作っておかないと対価を払っていない気がして毎日なにかしら夕飯を準備している。
食べた形跡がなければ翌日に自分のお昼ご飯にでもすればいいしね。
そう思い直した光莉は今日のメニューを考えるべく冷蔵庫へと向かった。
「クソッ...、稀咲の野郎、こき使いやがって」
一は疲れ切った表情のままエレベーターのボタンを押す。共同経営者である稀咲鉄太の有能さのお陰で日々の膨大な仕事量がマシだとは分かっているが、副会長が有能な故に会長である自分も有能にならなければならないのは良し悪しだ。
寝るために帰るだけのマンション、だからこそコンシェルジュ付きで家事を任せられる所を選んだ。
チン、という到着音とともに扉が開き廊下を進むと、部屋に近付くにつれ空気の暖かさを感じる。ここ最近、そう、光莉が居候になってから感じることだ。