第8章 救世主の魔法使い
そうして僕たちはあの裏山に分け入った。
大蜘蛛を怒らせているのにこの山に入っていいのかという疑問はあったが、それより僕には気になることがあり、適当な木の根元で休憩をしている時に僕は男の人に訊ねた。
「お兄さんの、さっきの……魔法?」
すると、お兄さんはサングラスから少し見える眉を吊り上げて、それからそっぽ向きながらこう答えた。
「まぁそうだね」
「もう一回見たい!」
「ダメダメ、そんなに何度も出来ないから」
お兄さんは長い指先のある両手を振って後ろに下がった。疲れてしまうのか分からないが、僕はそれよりその手の平から繰り出した魔法をもう一度じっくり見てみたかったのだ。
何度かせがんだらお兄さんは頭をさすりながら渋々魔法を見せてくれることになった。
お兄さんは僕の目の前で手の平を見せた。するとそこに徐々に丸い何かが膨らんできて、それは一拳くらいの大きな紫の玉になって現れた。
「わぁ、すごい……!」
僕は本物の魔法を間近で見ることが出来たことに感動してバンザイをした。お兄さんはすぐに魔法の紫玉を握って消して、これで満足したでしょと言った。
僕はもっと魔法を見たかったが、さらにせがむと大蜘蛛に気付かれるかもしれないからと、再び山の奥へと歩き出して行ったので、僕も慌てて追い掛けた。僕は半袖短パンで木々の枝が引っ掛かることくらい気にならなかったが、お兄さんの紫のローブがあまりにもだらりと垂れ下がっているので、すぐに土や葉っぱだらけになって擦り切れているのが見えた。