第7章 現れた紫
「え……」
僕は後ろを見上げた。
逆光でよく見えないが、そこには背の高い男の人が立っていた。そして、あまりこの辺りではよく見掛けないような格好をしている。
それがなんなのかよく見ない内に、目の前の大蜘蛛がギシャアと悲鳴のような声をあげて後退していた。何が起きたのか理解しようとする間もなく、背の高い男の人が僕の体に巻きついた糸を解いてくれた。
「さ、逃げよう」
男の人は言った。だが、米俵まで投げ飛ばされたメンじぃの姿が見えなくて僕は心配だった。
「でも、メンじぃが……」
「メンじぃは大丈夫」
どこにそんな根拠があるのか僕には分からなかったが、なぜかその男の人の声を聞いていると本当に大丈夫な気がした。僕は男の人の手を取って立ち上がった。それからは男の人の力に引っ張られるまま走り出した。
離れを振り向くと、あの大蜘蛛があらゆるものを破壊しながら這い上がってきて僕たちを追い掛けてきた。僕は前を向いてなんとか走ることだけに集中した。
「あの蜘蛛、なんで追い掛けてくるの?!」
「大蜘蛛の社に近付き過ぎたからだ……!」
走りながら僕が質問をすると、男の人はそう答えた。それはメンじぃから聞いていたが、僕には大蜘蛛に追われる理由がよく分からなかった。
「ギシャアアア……!」
蜘蛛の声がすぐ真後ろまで近付いて僕の背中は凍る思いだった。途端に僕を引っ張っていた男の人が一旦止まって振り返った。なんで止まるのと言っている程余裕はないくらい息が切れていて、僕は男の人が手から何か不思議な光を放ったのを見た。大蜘蛛は悲鳴をあげてまた動きを止める。僕たちはまた走り出した。