第6章 静かな兆しから
「ここはいいから逃げろ!」
とメンじぃは叫んだが、僕はあまりにもの恐怖でそこから動けなかった。メンじぃが大蜘蛛の足を農具で払いのけている様からただただ目を離すことが出来ず、僕は立ち尽くしていた。
「早くっ!」
メンじぃにもう一度急かされ、僕はようやく足を動かせることを知った。まずはここから逃げて誰か助けを呼ばなきゃ。そうだ、隣のおばあさんならまだそこの道を歩いているかも。僕はようやくそこまで頭が回り始めて走り出そうとしたが、遅かった。
「うわぁ?!」
僕は大きく転んだ。
メンじぃが僕の名前を呼んで駆けつけてくれた。僕はいつの間にか糸でグルグル巻きにされていて身動きが取れなくなっていたのだ。
「メンじぃ!」
倒れた僕に気を取られたメンじぃは、後ろから襲ってくる大蜘蛛に気付くのが少しだけ遅れた。
僕が必死に呼んだ声にメンじぃはすかさず反応して振り向いたが、大蜘蛛の足が襲いかかった。メンじぃは農具は構えたが踏ん張ることは出来ず、横のふすまを破って米俵まで吹き飛んで行った。
「メ、メンじぃ……!」
絞った僕の声が震えていた。僕はなんとか動こうと足掻くが、糸が千切れる気配はなく、そうしている間にどんどんと大蜘蛛が迫ってきていた。いくつもある赤い目が、僕を見下ろしていた……。
もうダメだ。僕は痛みを覚悟した。
「ディストラクション」
僕の後ろで、聞き慣れない声が飛んだ。