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あの日見た紫の思い出

第5章 田んぼの遊び場


 そうして次の日にもなれば、忘れっぽい僕は大蜘蛛の社のことなんてすっかり忘れて、また懲りずに外へ遊びに行っていた。
 その日はよく晴れていて、外に遊びに行くには最適だったのだ。
 といっても近くに校庭みたいに広い場所もないので、僕の遊び場はほとんどがメンじぃの水田内だった。水田には色々な生き物が泳いだり跳ねたりしていて、僕は虫アミなんかを振り回して追い掛けていた。
 あの頃はミミズなんか素手で捕れたんだよな。子どもって不思議だなぁって思う。
 そうして水田やあぜ道を走り回っていると、台車を引いているおばあさんに出会った。メンじぃの水田をいくつか越えた先に住むお隣さんで、そのおばあさんも米を作っていた。
「あら、メンさんとこのお孫さん」
 とおばあさんに声を掛けられ、僕は泥まみれのまんまこんにちは、と挨拶をした。僕は昔から勉強も運動もあまり出来ない不器用な少年だったが、挨拶だけは立派ってよく言われていたんだ。
「元気な挨拶ねぇ、うちの息子にも見習って欲しいわぁ」とおばあさんは言って、台車に乗せていた野菜を見せてくれた。「おじいちゃんはいるかい? 野菜が採れたから届けに行きたいんだけど」
「僕も引っ張る!」
 なんでもやりたがりの僕は、おじいちゃんがいるかどうかより台車を引っ張りたいという気持ちだけで言ったことだった。おばあさんはそんな僕を笑って許してくれて、一緒にあぜ道を歩いて台車を引っ張ったのも、いい思い出だ。
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