第4章 災いの兆し
その後、囲炉裏を弄っているメンじぃから聞いたのは、僕が見たのは「大蜘蛛様の社」に違いない、とのことだった。
ずっと昔に山火事で焼失してしまってから、時々誰かが大蜘蛛様の社の幻覚を見る話が後を絶たないらしい。そして、その大蜘蛛様の社の幻覚を見た者には、必ず災いが降り掛かる、とも。
「ワザワイってなんなの? メンじぃ」
僕は怖くなって訊ねた。メンじぃは喉奥で唸りながら、苦々しくこう答えたのをよく覚えている。
「分からん。だが、見たといった者には必ず悪いことが起きとったからのう」
悪いこと、と聞いて怯えない子どもがいるだろうか。僕は真夏の囲炉裏の前でなぜか背中から寒気を感じてぞっとした。それから恐る恐る、僕はメンじぃにこういうことも聞いてみていた。
「メンじぃは、見たことあるの……?」
するとメンじぃはまた喉の奥で唸るばかりで、とうとう答えないまま飯の準備をしよう、と立ち上がった。
単純だった僕はお腹が空いていたのもあって、分かった〜と頷いて飯作りの手伝いをしに行った。
メンじぃの飯はいつも男一人暮らしみたいなワイルドでシンプルなものだった。メンじぃの田んぼで収穫して取って置いてある古い米を釜で炊いて、おかずは山で採って来たキノコを揚げたもの。僕はあまり好き嫌いがないから、時々山菜が並ぶこともあった。
「今日はな、いいのが捕れたんだ」
とメンじぃが言う日は大体、食事に肉が並んだ。メンじぃは猟師でもあったから、田んぼを荒らしに来るイノシシ狩りなどをしてそれを有難く頂くことがよくあった。それを囲炉裏で煮込んで、僕はたくさん肉を頬張った。