第17章 時は戻って
切手に押された日付けを見ると、メンじぃの亡くなった年にこの葉書が送られていることが判明し、まさかこんなところに昔の葉書を落としたのか? と不思議に思いながら裏返してみた。
そこには一行だけ、文字が走っていた。
『大蜘蛛が山を下りてきた』
俺は息を飲んだ。
それから俺は急速に、メンじぃが大蜘蛛に襲われたあの記憶が蘇ってきて背筋がゾッとした。どうして今まで、あの恐ろしい記憶を忘れていたのか、それすら恐怖に思えてきて手が震える。
いや、だが、あの時「お兄さん」がいたではないか、と俺は気持ちを切り替えようとしたが、不安はますます募るばかりだった。ちょっと待てよ……あの時の「お兄さん」は誰だったのか?
俺はスマホを取り出して画面を開き、前にドズルさんからもらった様々な画像を遡る。そして、それはある一枚の画像で手が止まった。
太陽の王国の俺たちのキャラクターデザイン図だ。
そこにいる俺は紫のマントのようなものを羽織っていて、サングラスを掛けていた。それを今更改まって見てみて、やっと気付いた。
あの日見た「お兄さん」は俺だったんだ。
だとしてもどうして? と考えてみてもよく分からず、あの時俺はなんて言っていたのか頭を必死に捻っている内に、洗面台の前に行き着いていた。
見慣れた俺の顔を映す鏡。顔色はあまりよくなく、焦っている気持ちが表情に出ていた。
俺はダメ元で鏡に話し掛けてみた。
「俺をメンじぃのところに連れて行ってくれ」
あの時のメンじぃを助けるのは俺なんだ。きっとそうだと思い込んでいた。だってメンじぃは、老衰で亡くなるまでずっと元気だった。大蜘蛛で亡くなるなんて話があってたまるか、と俺は思っていて。
しかし、鏡にはなんの変化もなく、俺はよくやく我に返った。もしかして、大蜘蛛の話なんて子どもの頃に捏造した妄想の話なだけで、この葉書だって誰かのイタズラに投函されたものなんだ、と。
俺は息を吐いて鏡から目を逸らした。こんなことしていないで早く買い物に行かなきゃ。そう思ったのも束の間だった。
「うおっ……?!」
急に足が浮く感覚。俺の体が見えない力で宙に浮いているんだと自覚した次の瞬間には、目の前が真っ暗になってどこかへと吹き飛ばされた。