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あの日見た紫の思い出

第14章 新しい魔法


 だけど、僕たちの必死さはなんの変化も起こさないまま、周りにどんどんと火が広がっていた。大蜘蛛の社にも火の手が伸びていて、土台から支えている木造の柱が徐々に燃え始めていた。
「どうしよう、お兄さん!」
 僕はお兄さんを振り向いた。お兄さんはえーっとと考え始める。
「要するに火を消したらいいんだろ……? えーっと……そうだ、水だ!」
「水……?」
「そうそう、水水! 水は英語ではウォーターだから、ウォーター、出てこい! とか……」
「ウォーター……」
 なぜかその言葉に僕は何らかの力を感じた。この言葉なら出来る。この言葉なら呪文になる、という不思議な確固たる何かを感じたのだ。
 僕は火の方を向いた。
「ウォーター!」
 僕はそう叫ぶと同時に大きく両手を振りかぶった。するとすぐに変化が起きた。
 ざぱぁっという音と共に現れたのは大きな水の塊だった。僕が振り下ろした手の先から飛び出したかのように出てきた塊はすぐに重力に沿って形を崩しながら地面に散らばった。
 それは足元の火にかかり一瞬鎮火させたように見えた。僕はお兄さんを見上げた。
「それだ、ウォーターだ! もっとやろう!」
「うん!」
 お兄さんに言われ、僕は俄然勇気が溢れてもう一度手を振り下ろした。ウォーターと唱えると現れる水は僕が振る手のすぐ前から現れて一部だけわずかに火を消した。
「ウォーター! ウォーター!」
 僕は何度も呪文を唱えてあちこちの火に向かって放った。跳ね返る水飛沫が僕の服を濡らしたが、そんなことに構っている場合ではなかった。
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