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あの日見た紫の思い出

第13章 それはあっという間に


「ワンッ、ワンワン!」
 その時、森の方から犬のような鳴き声が響いた。なんだろうと僕たちが振り向いた時、それは起きた。
「うわぁっ?!」
 少年は犬の鳴き声にびっくりして尻もちをついた。そのはずみで落とした提灯から火がこぼれ、草や葉っぱだらけの地面にあっという間に広がった。
「うわぁああああ!!!!」
 少年は落とした提灯も拾わずに瞬く間に走り出した。点けた火も消さないで、と文句を言いたくはなったが、火の海と化したここから早く逃げなきゃ大変な目に遭っていただろうし、少年は正しい判断をした。
 だが。
「あ、大蜘蛛の社が……!」
 僕は大蜘蛛の社を指した。火は石造りの土台を伝って、みるみる内に社の方へ伸びてきている。大蜘蛛の社は木造で出来ていた。このままじゃ大蜘蛛の社は、また山火事で焼失してしまう。
「なんとかしないと……!」
 お兄さんは大蜘蛛の社に近付いて火を素手で抑えようとしたが、この時代に生きている訳ではない僕たちではするりとすり抜けるばかり。お兄さんは悪態をついた。僕は立ち尽くして必死に考えた。どうしたらいいんだ。どうしたら……。
「そうだ! お兄さん、魔法は? 火を消す魔法!」
 僕はお兄さんに言ってみた。お兄さんのあの手から繰り出した紫の魔法の玉みたいに、魔法で火が消えると思ったのだ。
 しかし、返ってきたのは肩を落としながら話すお兄さんの沈んだ声だった。
「そんな魔法はない。まだ俺が覚えていない魔法なんだ」
「ええっ」
 僕は驚き、落胆した。
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