第12章 鏡の世界
「メンじぃのおじいちゃんとか……?」
「そうね」
それくらいかも、とお兄さんは答えて頷く。すると僕は恐ろしいことに気付いて息を飲んだ。
「じゃあ、山火事を起こしたのって……」
「いや、まだ分からない」お兄さんは僕の口を遮るように話し出した。「ほら、後ろに女の子が出てきたし、もう少し様子を見よう」
そうお兄さんが指す方向から、メンさんと呼びながら同じ着物を着た女の子が走ってきて僕らの体を通り抜けた。
どうやら僕たちは、この二人の子どもには見えていないみたいだった。過去を遡っているのだから、そういうものだったのかもしれない。
「メンさん、ここは……?」
着物の女の子が、メンと呼ばれる男の子にそう訊ねた。
「ここは明一家が代々守ってきた社なんだって」とメン少年が答える。「大事な人にだけここを教えていいんだって。だから、リンに教えたかったんだよな」
「私に……?」
「そっ」
そう言いながらそっぽを向くメン少年。この場面はもしかしなくても、見てはいけない場面を目の当たりにしているのでは、と僕はお兄さんを見上げた。
「あー、ちょっと俺らはあっちにでも行こうか」
いくら僕たちが二人に見えていないと分かっていても、この場所に居づらかったのはお兄さんも同じだったらしい。僕たちは一旦大蜘蛛の社から離れて森の中へ再び踏み入った。
だが、放火犯らしき人は全く見つからず。ヒントになりそうなものもないままどんどんと日が傾き、暗くなる頃には僕たちはまた大蜘蛛の社に戻ってきていた。僕はため息をついた。
「本当は放火犯なんていなかったのかな……?」
と僕が呟けば、うんともすんとも言い難い様子でお兄さんが横でうーんと唸るばかり。お兄さんにも何も検討がついていないみたいだ。
もしかして、時の鏡で時間を遡り過ぎたのではないのだろうか、と僕が考えた矢先、向こうから小さな光がゆらゆらしながら近付いているのが見えてきた。
「お兄さん、あれ」
「ん……?」
僕はお兄さんと一緒に目を凝らしてみた。暗がりから見えたのは、提灯を棒につけてこちらに歩いてくる、着物を来た少年だった。