• テキストサイズ

あの日見た紫の思い出

第11章 最奥へ


「お兄さん、あれは何……っ?」
「時の鏡だ……!」
 僕の言葉にお兄さんは焦っているような、驚いているような口調で答えた。時の鏡。僕はお兄さんの回答を頭の中で何度も繰り返して考えてみる。そして、その鏡が中身で映しているものがなんなのかを。
「もしかして、燃やされてる時の大蜘蛛の社……?」
 自分でもおかしなことを言っているのは充分分かっていた。だが、大蜘蛛に襲われたり、お兄さんの魔法を目の当たりにした今、ここが僕が思っている以上に不思議なことが起こる場所なら、それはあり得るような気がしていたのだ。
「そうだろうな」
 お兄さんは静かに答えた。それからさらに話を続けた。
「もしかしたら、この時の鏡の中を探したら、山に放火した犯人を止められるかも」とお兄さんは話す。「大蜘蛛はずっと、誰かが放火を止めてくれる人を待っていたんだ。だから大蜘蛛は……」
 お兄さんは言葉を続けなかった。実際僕はその大蜘蛛に襲われたし、メンじぃだって襲われていた。けど、メンじぃはどこかでこうも言っていた気がする。悲しみが、時には怒りになることを。
 なら、僕がするべきことは一つしかないと思った。
「僕、放火した人を探すよ」
 と僕が言うと、お兄さんは頷いた。
「じゃあやってみようか」
 お兄さんは鏡の前に立つ。僕もお兄さんの隣に並んだ。
「放火犯のいるところまで連れてってくれ」
 お兄さんが時の鏡にそう話しかける。僕はそれがとても魔法の呪文のようには聞こえなかったが、鏡の中の炎がみるみる内に消えていき、青々しい緑の森が映し出されていった。お兄さんはこちらを見つめた。
「行こうか」
「うん」
 僕はお兄さんと手を繋いで、時の鏡の中へ吸い込まれて行った。
/ 28ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp