• テキストサイズ

あの日見た紫の思い出

第11章 最奥へ


 地下に下りると、お兄さんが何か呪文を唱えて辺りがぼんやりと明るくなった。
 見回すと、僕たちの目の前には長い通路が真っ直ぐと伸びていて、左右の壁には等間隔でロウソクに火が灯っていた。
「ここはどこなんだろ……?」
「さぁね」
 僕がそう訊いてもお兄さんは分からないと答えるばかり。じゃあどうして、お兄さんは大蜘蛛が襲ってくることを知っていたんだろう。
「じゃあどうして、僕たちを助けてくれたの?」
 それはね、とお兄さんは言いかけて口を閉じる。何か言いたくないことでもあるんだろうか。サングラスからチラ見えする眉毛が、上がったり下がったりを繰り返し、それから一つだけ答えてくれた。
「メンじぃが教えてくれたからだよ」
「メンじぃが?」
「そ、メンじぃが」
「じゃあお兄さんは、メンじぃの知り合いなんだぁ」
「あー、それはねぇ……」
 僕の言葉に、お兄さんはまた声を途切れさせる。なんだかお兄さんには、秘密が多いみたいだ。
「魔法使いって秘密がいっぱいなんだね」
「そうそうそう、そうなのよ」
 それからへらりと笑うお兄さんの顔に、僕はどこか見覚えがある気がして目を見張った。だがお兄さんは急に顔を逸らし、待て、と僕に制止を促して立ち止まったから、よく見ることは出来なかった。
 僕は仕方なく、お兄さんが立ち止まった理由へ視線を向けた。
 そこは通路から開けたそこそこ広い和風の部屋になっていた。そして真ん中にはここに入ってすぐ見たあの大きくて丸い鏡があったのだが……明らかに違う部分があって僕は思わず後ずさりをした。
 鏡は、立ち尽くす僕らを映していなかった。
 それだけでなく、鏡の中ではメラメラと燃える炎と森が映し出されていて、僕は自分の目を疑った。
/ 28ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp