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あの日見た紫の思い出

第10章 不安と共に


「わ、中はこうなってたんだ……!」
 僕は声をあげた。大蜘蛛の社に入ってすぐには、大きな丸い鏡が置いてあって、手を振った僕を映した。
「鏡は魔力を溜めるのに都合いいんだろね」
 とお兄さんが言うものだから、そうなの? と聞いてみれば、クスクス笑って「俺の言っていることは適当だから流していいのよ」なんて返されて、本当に不思議な人だなぁと僕は思った。
 そうして中を探索しても、大蜘蛛の社は鏡以外何もなく、僕もお兄さんもうーんって唸るばかりだった。
 そんな時、僕は足元に敷いてある絨毯が、少しだけズレていることに気が付いた。
「ねぇ、お兄さん」
 と僕が呼ぶと、あー、なるほどねとお兄さんは言って絨毯を捲った。そこには地下へ繋がりそうなハシゴがかかっていて、奥は何も見えない暗がりへと繋がっている。
 大丈夫かな、と僕がお兄さんの方を見上げると、お兄さんも不安そうな顔をしていて慌てて目を逸らした。そっか、お兄さんも怖いのを我慢して来てくれてるんだ。僕はそうやって自分に言い聞かせた。
「行こうか」
「うん」
 それでもお兄さんは、僕に優しく笑って先にハシゴを下りて行った。あれが作り笑いなんだなって僕は思った。僕はちゃんと笑えてるのかな。僕は深呼吸をして、お兄さんのあとを追った。
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