第3章 質疑応答 × 接近
なぜかまだ手を繋いだまま、長い廊下を並んで歩く二人。
『ねぇメイドなんて聞いてないよ?』
「うん、言ってない」
『……。イルミのお母さん、すごく怒ってなかった?』
さっきキキョウに掴まれた両肩が少し痛んで空いた手で肩をさすった。
「まぁ正体がわからない人間だし、あんなもんでしょ」
『そ、そうだよねぇ』
「気をつけないとオレじゃなくて母さんに殺されるかもね、ははは」
はははじゃないよ!笑い事じゃないんだからほんとに!
『ねぇねぇ、イルミって何してる人?』
「暗殺」
『あんさつ?暗殺って人を殺しちゃうあの暗殺?』
「うん。あれ、言わなかった?うち暗殺一家なんだよね」
聞いてないって言いたかったのに何故か違和感を感じた。
イルミ
暗殺
ヒステリックなお母さん
ククルーマウンテン
何かを思い出せそうなのに、またツキリと頭が痛む。
すごくもどかしい。
「サクラ?どうしたの?」
考え込んでいるサクラの顔を覗き込むイルミ。数センチの距離まで近づく。
『うわぁ!びっくりした!近いよ!』
「サクラ、顔真っ赤」
『イルミが急に顔近づけるからでしょ!もう!』
「へぇ」
イルミは離れるどころか、更に近づく。
離れようとするサクラを、繋いだままの手に力を込めて逃がさない。
『イルミっ!近いってば!!』
「……」
どんどん近づく距離。サクラは咄嗟に目をつぶるがそれでもわかる、イルミの気配。
(このままだと…キスされる!?)
ふと目の前の気配が消えた。
(あ、あれ…?)
うっすら目を開けるとイルミはいなかった。手も解かれていてスタスタと一人で先を歩いている。
「ここがサクラの部屋」
何もなかったかのようにしれっとしてドアを指差す。
『(…~っ!からかわれた!!)ドーモアリガトウゴザイマスー』
「あれ?サクラ怒ってるんだ?」
『怒ってません』
「してほしかったの?」
ぼん!とサクラの顔の熱が暴走した。
したことないわけじゃないのになぜかすごく恥ずかしい。
『結構です!!』
「そう?残念」
(よくもそんな飄々と!)
なんて言葉は出さず、ツイとそっぽを向いた。