第13章 帰還 × イタズラ
そして、
『…ネーロ。』
「…なにかな。」
『なにかな、じゃないよ!なんでイルミのところじゃないの!』
「…あいつに会わせてあげるとは言ったけど、あいつのところに連れて行くとは一言も言ってないよ。」
『なにその屁理屈!はぁ……ここどこなんだろう。パドキアから近いのかな。』
ネーロはイルミがいる場所に連れて行こうと思えば簡単に連れていけたが、わざと行かなかった。告白した自分をそっちのけにしたサクラへのイタズラだったのだ。
『まぁいっか!クロロにも会ってみたいし。あ、名前だけは気をつけなくちゃね。』
「…浮気者。」
本日2度目。
『浮気じゃないよ!目の保養にするだけ!私はイルミ一筋なんだから。』
「…どうでもいいけど、僕が”ありがたく”分けてあげた力の使い道、考えといた方がいいんじゃない?」
『え?』
「この世界では”念”を使えることが重要なんでしょ?」
『うん!ネーロよく知ってるね!…ということは私使えるの?』
「…今度この世界に来た時は、少しは何とかなるって言ったの忘れた?」
『…あ』
それは、契約という名のキスをされたあとにネーロが言った言葉だった。それを思い出して、少し赤面するサクラ。
「やっと思い出した?」
『うん、ごめん…。』
「はー…まったくさ。僕がサクラのこと好きって言ったの忘れて、シャルナークとかいうやつに会って浮かれてるし?今度はクロロが目の保養?はーーーー」
『ご、ごめんなさい…』
「これじゃ浮気者って言いたくもなるよ。」
姿は可愛らしい黒猫なのに。出てくる言葉は辛辣だ。
『ネーロ、ごめんね?』
反省したのか、しょんぼりしながらネーロの顎を撫でる。
「……もういいよ。僕としてはイルミに早く話をして、そして僕のものになってくれればいいから。」
『そんなこと言わないでよ!ネーロには悪いけど、イルミならきっと…』
受け入れてもらえる、そんな確信はなかった。
ネーロの言う通り、正体を明かしたらそのまま殺されるかもしれない。
それでも、彼の優しさを信じたい。
彼の言葉は不器用で時々冷たくて。けれどいつも自分を守ってくれて、側にいてくれていた。自惚れかもしれない、自己満足かもしれない。それでも諦めるつもりはなかった。