第12章 消失 × 現実
どきっとした。自分の”正体”のことをなぜ知ってるのだろう。これは試験が終わったらイルミに話そうとしていたことだ。
「僕は昔から見てきたんだ。だから君の正体も知っている。君は彼に”正体”を言おうとしたね?」
『うん…』
「もし、それが彼にとって危険と判断されたときのことを考えていた?」
『……』
また孤独になるだろうと思っていた。離れていくと。しかしネーロの言葉はもっと単純だった。
「多分さ、彼は君のことを殺すだろうね。」
『…っ』
そうだ。彼は殺し屋だ。離れていくなんて生温い。自分の考えがどれほど甘かったかを思い知らされた。
「…はぁ。実はさ、僕まだ修行中の身なんだよね。」
『…?』
今の話の中に何の関係があるのかと、怪訝そうに彼を見る。それに気付きながらもネーロは続ける。
「君をあの世界に連れて行ったり、元の世界に戻したりすることくらいは簡単にできるんだけど」
『……』
「もし、あの世界で君が死ぬようなことがあったら、僕も死んでしまうんだ。」
『…え、えええええええ!?なっなんでですか!』
ネーロは困ったように微笑んでいるだけで答えない。
「だからあの時、少し無理やりだったけど元の世界に戻ってきてもらったんだ。」
ネーロは親指でサクラの唇をなぞる。
「さて、それでも君はあの世界にまた行きたい?」
それでも、と言われてもまだよくわかっていないサクラは答えに迷う。唇をなぞる指のくすぐったさに、ぴくりと体を震わせれば、ネーロの目が細められた。
「…僕は君の正体のことも含めて全てを知っている。その上で君が好きなんだ。だから、できれば彼のところには行かせたくない。」
突然の告白にサクラは何も言えず、彼の綺麗な瞳をじっと見つめる。綺麗に微笑んだままネーロは更に顔を近づけてきた。
「それでもサクラが望むのなら、それを叶えるのが僕の仕事だ。契約をしよう。」
『契約?』
「そう。僕は君をまたあの世界へ連れていくよ。そこでもしもイルミが君を殺そうとしたとき、僕は君を助けるよ。その代わり…」
『…うん?』
「その時はサクラ、君は僕のものになってもらうよ。」
『!!』
「これが契約の内容。どう?」
言い終えたネーロは意地悪そうな笑みをして答えを促す。