第12章 消失 × 現実
頭の中を整理したいのに、喋る猫は聞いてるのか?と言ってくる。さっきまでのかわいらしい黒猫はどこへ行ったのか。今、目の前にいる猫はかわいらしさの欠片もない、ただの嫌なやつだ。
「サクラがさ、ある時からずっとこの世界から消えたいって思ってるから、僕が願いを叶えてあげたんだ。それなのに…」
『待って待って!』
「どうしたの?」
『あの、あのね…まず、あなたは何者なんですか?』
そう、まずネーロは何者なのか。
あの世界に連れて行っただの、願いを叶えただの意味がわからない。
「僕はね、時の番人だよ。」
『は?』
ときのばんにん?何ですかそれ。
「時間を操れる神様みたいなものって言えばいいかな。クロノスって聞いたことあるでしょ?そんな感じ。」
…頭痛くなってきた。神様?こんなちっこい黒猫ちゃんが?
「サクラ、失礼なこと考えてない?」
『い、いいえ?そんなことないですけど。』
「本当はこんな姿じゃないんだよ。サクラの目を引くために変化していただけなんだから。」
そう不満そうに言った彼は、ボン!という音と共に姿を変えた。
『…え!』
「ね?」
現れたのは、黒猫と同じ綺麗な薄いブルーの瞳と、絹糸のように美しく長い金髪を靡かせた、とてつもないイケメンだった。
「サクラ」
『は、はいっ!』
つくづくイケメンには弱いな、と自分を情けなく思うサクラ。
近づいてくるネーロに顔を赤くせずにはいられなかった。
「またあの世界に行きたい?」
『行きたい!ですけど行けるんですか…?』
そう質問で返せば、にっこりと微笑むネーロ。その美しさに見惚れる。その様子に気付いた彼は、面白そうにサクラの顎を指でくいっと上向かせる。
『!!?!?!』
「行けないことはないよ。僕の力ならね。ただ…」
『ただ…?というか近いんですけど…』
「ふふふ、顔が真っ赤だね。さっきも言ったように、君は無茶をしすぎる。だから、行かせられない。」
『無茶…ですか?』
先ほどからネーロが言う”無茶”、これがサクラにはわからなかった。
そんなことをしたつもりはない。
「君の大好きな彼、イルミだっけ?彼は君の正体を知らないよね?」
『……』