第12章 消失 × 現実
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『う……ん、』
眩暈と頭痛がいつの間にか消えていて、ゆっくりと目を開いてみる。
『あれ…?ここって…』
見覚えのある場所が映った。
『本屋さん?何これ、どういうこと?私、戻ってきたの…?』
サクラがいる場所、それは異世界へ行くきっかけとなったあの古本屋だった。目の前の状況が飲み込めず、思わず本屋を飛び出す。
(え、何、なんで…?)
突然の状況に頭がついていかない。
初めにトリップしたときのようだった。
(イルミとヒソカと話をしてて、急に頭が痛くなって…)
ついさっきまでのことを必死に思い返すサクラ。
(あ!)
何かを思い出したように自分の体を確認する。
(…これも、トリップしたときのまま?じゃあさっきまでのは…)
確認したのは自分の服装。それは異世界へ行く前の本屋に寄ったときのままだった。
(いま何日…)
服のポケットに入ったままだったスマホを見たが、日付も変わっていないし、バッテリーもほぼ減っていない。
(めちゃくちゃリアルな夢だったのかな。)
こんなにもあの世界にいたという証拠がないと自分の記憶さえも疑わしくなる。
古本屋を出て無意識に足を進めていたサクラはいつの間にか自宅マンションの前まで来ていた。
『家か……ん?』
マンションの入口の前に黒いものが丸まって置いてあることに気付く。
(ゴミかな?でも動いてるような…)
近づくとそれは丸まって眠っている子猫だった。寒いのか少し震えているように見える。
『黒猫だ、かわいい…寒そうだなぁ。おーい猫ちゃーん』
驚かせないようにそっと丸い背中を撫でてみると、ぴくりと反応はしたものの逃げるどころか起きる気配すらなかった。
『猫ちゃん寒くない?うちに来る?』
真っ黒なその姿がほんの少し前まで一緒だった彼と重なって、サクラは放っておけなくなっていた。
しばらく撫でても起きる様子がないことを確認するとサクラは黒猫を抱き上げた。
『どこかの飼い猫かなぁ?でも寒そうだし…いいや、連れてっちゃえ!』
幸いマンションはペットOKだった。