第10章 ハンター試験③
『だってさ、なんだかんだイルミのところに連れてってくれたし、さっきもしっかり偽名で呼んでくれたし、愚痴まで聞いてくれるし。優しい人なのかなぁって。』
「クックック◆じゃあボクにしとくかい?」
『はい?ボクにしとくってなに?』
いつの間にかサクラの後ろには壁があり、ヒソカの両手で逃げ道を塞がれる。
(壁ドン…!)
『ヒソカっ!ちょ、近いってば!』
「サクラ◆こっち向いて★」
思いっきり顔を背けるサクラだったが、ヒソカの指に顎を掬われて強制的に正面を向かされた。
『やだっ!』
「ダメだよ、サクラ◆」
近づいてくるヒソカを押し退けようと彼の身体を両手で押すがびくともせず、逆に自分の頭上でひとまとめにされてしまった。
なおも近付いてくるヒソカにぎゅっと目を瞑る。
鼻先が触れ、キスされると思った瞬間…
ビュッ
「おっと◆」
ぱしり、とヒソカは何かを掴む。
サクラがそっと目を開けると、その手には見覚えのある鋲。
「何してるの、ヒソカ」
「…残念◆」
彼がそう呟くとサクラは解放された。
「ねぇ答えて」
「サクラが可愛いかったから、ついね◆」
はぐらかそうとするヒソカに、イルミは苛立ちを顕にしながら鋲を投げるが、ヒソカは何食わぬ顔で避けている。
「…早く消えて。じゃなきゃ殺すよ」
「おや怖いねぇ◆」
肩を竦めておどけてみせたが、顔はニタニタ笑ったまま。そしてサクラの耳元で、
「続きはまた今度★」
そう囁いて去っていった。
「サクラ」
囁かれた耳元を押さえながらヒソカが去っていった方を見つめていたが、イルミの少し冷たさを含んだ声で呼ばれてびくりと肩を震わせた。
「サクラ」
もう一度同じ声色で、少し強く呼ばれる。声だけで怒っているとわかって恐怖を感じながら、恐る恐るイルミの方を向く。
『っ!』
喉の奥が引き攣った。すぐ目の前までイルミが来ていたから。
「そんなに怖がらないでよ、傷つくなぁ。ねぇサクラ?」
『…は、い』
「変装まで解いてヒソカと何してたの?」
『何って、ただ話をしてただけだよ…?』
「へぇ。あんなに近づいて?」