第6章 過去
「…ずるいね、サクラ」
イルミはまた座って目を閉じた。解こうと思えば簡単に解けたその手。
それをしなかった理由はイルミにもわからない。
『ん…』
日差しの眩しさにもぞもぞと布団をかぶろうとして、サクラは手に違和感を感じた。見れば、イルミと繋いだままの手。
(そっか、昨日…)
自分のわがままでイルミに居てもらったことを思い出した。寝るまででよかったのに…そう思いながらベッドの淵にもたれて寝ているイルミを覗き込む。
(かわいい寝顔…)
もっと近くで見ようと顔を近づけた。
ぱちり
びくっとして身を引くサクラ。寝ていると思っていたイルミの目が突然開いたのだ。
『お、起きてたの?』
「うん」
『あーびっくりした!ていうか私寝たら部屋に戻ってくれてよかったのに。』
「オレもそのつもりだったけど、サクラが離してくれなかったから」
『うそ!?』
「ほんと。だからそのままにしといた」
とイルミ。サクラはじわじわと熱が上がってくるのを感じた。
(何やってんだ私!!)
「…じゃ部屋戻るね」
『あ、うん。イルミありがとね!』
「…別に」
そっけなくそう言うと、サクラの方を見ずに部屋を出て行った。
閉じた扉にもたれてふぅ、と一息つくイルミ。
(…危なかった。寝起きのサクラがかわいすぎてあのままいたら抑えられなかった)
「……サクラ」
そう呟くイルミの声は、本人も驚くほど小さく切なさを含んでいた。イルミの中で、サクラの存在はどんどん大きくなる。それは感じていたが理由は未だにわからない。
「早くなんとかしないと。」
イルミは自室へと戻っていった。
『イルミ怒ってなかった…?』
やっぱりわがまま言い過ぎたかな、と悩むサクラ。イルミの気持ちは当然わからない。
『イルミのおかげでこうやっていられるんだし、迷惑かけないようしなくちゃ!』
あんな夢がなんだ!意気込むサクラはイルミの部屋へと向かうのだった。