第6章 過去
『…私ね、妹がいるの。5歳下の。』
「うん」
『それでね、妹の夢を見たの。』
「…ふーんそれで?」
『それだけ。懐かしくて会いたくなって泣いてたんだよ。』
「それでうなされるの?」
『そ、それは!妹が大好きーって乗っかってきて苦しかったから!』
「…へー」
何かを隠しているのはすぐにわかった。サクラもイルミの表情を見て気まずそうにしているがこれ以上話す様子もない。
「…ま、そういうことにしとく」
『そういうことだもん!』
「とりあえず、まだ夜中だし寝なよ。おやすみ」
『……あ、待って!』
言いづらそうにもじもじしているサクラにイルミは首を傾げる。
「どうしたの?」
『…あのね、私が寝るまで一緒にいてほしい…』
サクラからそんなことを言われるとは思っておらず、驚いたように目を見開く。それを見たサクラが空笑いをしながら、
『やっぱりダメだよねそんなの。ごめん!おやすみな「…いいよ」』
『ほんと?』
「うん」
『…~っ』
途端にサクラの顔がくしゃりとゆがんで、大粒の涙がこぼれてきた。
「え、なんで泣くの?」
『ごめ…なんでもないの。イルミは優しいね。』
優しい?わからない。サクラが一緒にいてほしいと言ったから承諾した。それだけだ。
「よくわからないけど、一緒にいればいいんでしょ?」
『うん…すぐ寝るから寝るまで、いてくれる?』
すんすん鼻を鳴らしながら不安そうに首を傾ける彼女がかわいいと思った。黙ったままベッド横の椅子に座る。
『イルミ、もうひとつお願いがあるんだけど…』
「今度はなに?」
『…手、繋いでほしい』
サクラから求めてくるのが意外だったが、ん、と手を差し出した。
『わがまま言ってごめんね?ありがとう…』
サクラはイルミの手を握り、目を閉じる。手から伝わる体温に安堵したのか、すぐにサクラの寝息が聞こえてきた。
イルミはそっと手を解こうとすると離したくないというようにサクラがぎゅっと握ってきた。
「寝てるよね?」
確認するように小さく呟くが、返事として聞こえてきたのは小さな寝息。なのに手が緩むことはなく。