第5章 戦火【土方歳三編】
「はしゃいでる暇はねえんだ。てめぇら、とっとと準備しやがれ!長州の奴らはとっくに京に来てるんだ!俺たちが遅れてどうする!」
土方さんの言葉に、隊士さん達は勢いよく順次に散っていった。
そして部屋には幹部の皆さんだけとなると、土方さんは吐き捨てるように愚痴をこぼす。
「ったく……。てめえの尻に火がついてから、俺らを召喚しても後手だろうがよ」
そういえば……と池田屋の事を思い出した。
新選組の隊士さん達が命懸けで奮戦している時に、会津藩のお役人達はゆっくりと現場にやってきた経緯がある。
だから、土方さんがこういう表情をするのも納得できた。
「沖田君と藤堂君は、屯所で待機してください。不服でしょうが、私もご一緒しますので。池田屋での負傷が癒えていないように、私の腕も思うように動きませんから」
静かに話を聞いていた山南さんは、沖田さんと平助君に声をかけると、自分の左腕を軽くさすってから目を伏せていた。
その山南さんの表情は、どこか悲しそうで悔しそうだ。
一方、沖田さんと平助君は不服そうにしていた。
でも、実際に平助君の額の傷は完治した訳でもないし沖田さんもまだ安静にしてる必要がある。
「……傷が治っていないわけじゃないですけどね、僕の場合。でも確かに本調子じゃないかなあ。休んでろっていうなら休みますけど」
「……沖田さんが素直に言う事を聞いてる」
「ねえ、千尋ちゃん。僕が人の言う事を素直に聞かない人間に見える?」
「……いいえ?」
「否定するなら人の目を見て言おうか」
素直に聞いてくれる人なら、巡察は休んで安静にしてと言っていた私と千鶴と山崎さんの言葉を素直に聞いてくれる筈なのに……と思いながら沖田さんから目を背けた。
「オレだって別に大した怪我じゃないけどさ。近藤さんたちが過保護過ぎるんだって」
「大した怪我じゃないとか嘘つくなよ。昨日も傷口に薬を塗られて悲鳴上げてただろ」
「うわ、そういうこと言う!?左之さんは武士の情けとかないの!?」
「だが、悲鳴上げたってのは本当なんだろう?なあ、千鶴と千尋?」
「ちょっと!そういうこと聞くなって!黙っててくれたっていいだろ!」
叫びながら平助君が私と千鶴の方へと視線を向けてくるが、確かに昨日平助君は薬を塗られて悲鳴をあげていた。
そして薬を塗ったのは千鶴で、私はその横にいた。