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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第18章 修羅の轍【沖田総司編】


気の所為だったのだろうか。
そう思いながら道場に戻ろうとした時、中から千鶴が誰かと話している声が聞こえてきた。

(誰……?)

眉を寄せながら中を覗けば、そこには何故か坂本さんの姿があった。

「坂本さん!?」
「おお、千尋もおったか」
「な、なんで新選組の屯所に……」
「ちと、訳ありでな。探し物しにきたがやけんど……、ここ、随分広いにゃあ。どこに何があるがか、さっぱりわからんぜよ」

悪びれる様子もなく、坂本さんは困ったように笑う。

「探し物って、一体何ですか?」
「……近藤か土方を呼んできてくれるろうか?他の連中じゃ、話にならんき」
「お二人でしたら、外出中ですよ」

正直に答えると、坂本さんは落胆した様子で眉をしかめる。

「外出中か……。俺としたことが、今日は間が悪いにゃあ」
「どうして、こんな無茶なことを?他の隊士さん方に見つかったら、大変なことになりますよ」
「無茶をするにも大概があるでしょう……」

坂本さんは、薩摩やちょうしゅに武器の斡旋をしている。
だから幕府かたの新選組にとっては、敵ともいえる存在。

そんな彼が、こんなにも堂々と新選組の屯所にやってくるなんて。
少しは新選組の敵であることを自覚しているのだろうか。

「……探し物、ち言うたろう?新選組についての妙な噂を小耳に挟んだきよお」
「妙な噂?」

すると坂本さんさ少し考えるそぶりをした後、こう答えた。

「どうせ、おまんらは聞かされてないろう?羅刹という化け物のことは……」
「な、なんで……!?」
「どうして坂本さんが、そのことを知ってるんですか!?」

私たちの反応に坂本さんは一瞬面食らった様子だが、やがて平静な顔に戻りながら言葉を漏らした。

「何ぜ、おまんらんも知っちょったがかえ?まあ、綱道の娘たちなら聞かされちょってもおかしゅうないか。なら、話が早い。あの羅刹言うがは、一体何ながで?答えや」

坂本さんの声は、いつも陽気な彼らしくない殺気ていたものが宿っている。

(何で坂本さんが羅刹のことを……?)

何処で知ったというのだろうか。
そう思いながらじわりと額に汗が浮かぶ。

「女相手に、手荒な真似はしとうない。素直に答えてくれ」
「わ、私……」

答えられるはずがない。
坂本さん相手に、羅刹や変若水のことを明かすことなんて出来るはずがない。
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