第5章 戦火【土方歳三編】
永倉さんの言葉に苦笑する。
これでも一応、私と千鶴は土方さんの小姓なんだけど永倉さんは忘れているかもしれない。
そんな事を思いながら、千鶴と一緒にお茶を皆の前へと置いていく。
「ありがとう、雪村君たち。……すまないね、こんな仕事まで頼んでしまって」
「いいえ。やりがいがありますから」
「はい。それに、私たちは土方さんの小姓ですから」
私たちが小声で言えば、井上さんは嬉しげにニコニコとして頷いてくれた。
すると、差し出したお茶を一口飲んでから沖田さんが目を細める。
沖田さんは私たちを見ている。
何かを含んだような、そんな感じで目を細めなが私たちを見てくるので、私は沖田さんへと声をかける。
「あの、沖田さん?何か……?」
「……ちょっとぬるいかな。人数分のお茶を用意して、ぬるくなったんだね。君たちらしいっていえば、君たちらしいけど」
嫌味なのか、それ以外なのか……。
私と千鶴は口元を引き攣らせながらも、私は直ぐに沖田さんの湯呑みへ手を伸ばす。
「すみません、ぬるい事に気が付かなくて。すぐに取り替えますね、沖田さん。あ、皆さんのも替えますね」
「なんか、千尋ちゃんのその言葉……棘があるね」
「気の所為では?沖田さんの言葉には、なんだか嫌味が含まれてますね」
「あ……千尋、いいって。オレ、ぬるい方が好きだな。すぐに飲めるし……な、一君!」
「う……うむ。そうだな。こうも暑い日には、ぬるめの茶もいいかもしれん」
「そうそう!だから千尋もそんな言い方しなくても、な?総司も淹れてもらってんだから、文句言うなよ!」
そんな時、引き戸が開いて近藤さんが姿を見せる。
そして朗々とした声を張り上げた。
「会津藩から正式な要請が下った。只今より、我ら新選組は総員出陣の準備を開始する!」
「おおおーーっ!!」
近藤さんの言葉に、隊士さん達が大声を張り上げた。
そしてやる気を溢れているのか、隊士さんたちは騒ぎ始める。
「ついに会津藩も、我らの働きをお認めくださったのだなあ」
近藤さんはとても嬉しそうにしていた。
会津藩からの直々の要請が届いたということが、近藤さんにとっては本当に嬉しいことなのだろう。
だけど、近藤さんとは対照的に土方さんは喜ぶ様子は無くて、苦い顔をしていた。