第5章 戦火【土方歳三編】
「……あの、平助君の怪我が治っていないのは本当の事ですので……」
「傷も完治してる訳ではないです……」
平助君は前髪で上手く隠しているけれど、額にはまだ痛々しく傷跡が残っている。
すると平助君は私達の言葉に拗ねてしまったのか、【言わなくてもいいじゃん】とそっぽを向いてしまった。
そんな時、不意に永倉さんが口を開いた。
「そういえば、千鶴ちゃんと千尋ちゃん。もし新選組が出陣することになったら、一緒に参加したいとか言ってたよな?」
「……え?」
「あ、はい。私の場合、参加への許可が出て千鶴が行くなら……ですけど」
先日の原田さんの巡察に同行した際に、参加するかと聞かれて千鶴は【参加】と答えたけど、私は千鶴が参加するならと思って返事をしたようなもの。
「おお、そうだな。こんな機会は二度とないかもしれん」
反対されると思ったから、行くことはないと思ってた。
だけど近藤さんはあっさりと賛成したので、私は思わず目を見開いてしまう。
「え……そいつらが行くなら、オレも行った方がいいんじゃないか?」
「怪我が治ってねえんだろ?屯所で留守番してろって」
「よかったじゃねえか、千鶴に千尋」
「本当にいいんですか……?」
「てっきり、反対されると思ったんですけど……」
戸惑う私と千鶴を見て、土方さんと山南さんは呆れたようなため息を吐いた。
「今度も無事で済む保障はねえんだ。お前たちは屯所で大人してろ」
「君たちは新選組の足を引っ張るつもりですか?遊びで同行していいものではありませんよ」
「山南総長。それはーー彼女達が迷惑をかけなければ、同行を許可すると言う意味の発言ですか?」
思わぬ斎藤さんの助け舟に、私と千鶴は驚いて思わず自分の耳を疑った。
だけど、私たち以上に山南さんが驚いている。
「……まさか斎藤君まで、彼女達を参加させたいと言うつもりですか?」
確かめるように山南さんが尋ねれば、斎藤さんは緩く首を左右に振った。
「彼女達は池田屋事件において、我々新選組の助けとなりました。働きのみを評価するのであれば、一概に【足手まとい】とも言えないかと」
「斎藤さん……」
「それに、妹の方はここに来た時よりも剣の腕がかなり上達しました。今は平隊士と同等の腕前であり、いざとなった時は戦えると判断しています。ですので、参加させても大丈夫かと」