第4章 動乱【土方歳三編】
お節介というよりも、ただ心配なだけ。
日に日に顔に疲れが浮かんできている土方さんが心配で、食事をしていない彼が何時か倒れないかという不安もある。
「じゃあ、私は土方さんのお部屋に行ってきます」
「行ってらっしゃい」
おにぎりとたくあんと煮物を乗せたお盆を手に、沖田さんへと頭を下げてから私は勝手場を出る。
土方さんのお部屋まで廊下を歩きながら、【食べてくれないかもしれない】と少し不安になっていた。
千鶴や斎藤さんが何度かお部屋に食事を届けていたけれど、手をつけていなかったから。
暫く廊下を歩けば土方さんの部屋の前に到着した。
行灯の光が揺れていて、土方さんの動く影が見えて、まだお仕事をされているのが分かる。
「土方さん、雪村です。入ってもよろしいでしょうか」
「……妹の方か。入れ」
短い返事が聞こえ、ふすまをゆっくりと開けてからお盆を手にして部屋に入る。
土方さんは私の方へとは視線を向けず、机に視線を向けて手にしている筆を動かしていた。
「で、何の要件だ」
「軽くですが、お食事を持ってきました」
「食う暇がねえから要らねえ」
想像は出来ていたけれど、やっぱり言われてしまった。
だけど引くわけにもいかずに、私は少しだけ息を飲んで口を開く。
「食べてください。最近の土方さんは、朝餉も食べられていないじゃないですか……」
「食わなくても死ぬわけじゃねえ。要らねえから持って帰れ」
「いいえ、帰りません!食べてください!」
「要らねえって言ってんだろ」
「ダメです!」
あまりにも私が引かないせいか、机へと視線を向けていた土方さんは大きくため息を吐くと、私の方へと煩わしそうに視線を向けてきた。
「要らねえって言ってるじゃねえか」
不機嫌そうな声で、土方さんは私を睨んでくる。
それで怯むと思っているだろうけれども、ここで怯む訳にはいかない。
何としてでも食べてもわらなければいけないから。
「きちんと食べなければ、お体を壊します。そうなればお仕事だって出来ないんですよ」
「この位で壊すようなヤワな身体じゃねえよ」
「いいえ。何時か限界が来ます」
「ああ…うるせえ奴だな!要らねえから持って帰れ!」
土方さんが大きく口を開いて、私へと言葉を投げかけた時である。
私は、土方さんへの説得は無理だと判断して、強行突破する事に決めた。