第4章 動乱【土方歳三編】
広間へと入れば、そこには【食事は不要】と斎藤さんに伝えたはずの土方さんの姿があった。
一瞬、やはり夕食を食べに来られたのかと思ったけども、近藤さんと何かを話し終わったら直ぐに立ってふすまの方へと向かっているので、ただ近藤さんに所用があっただけみたい。
「土方さん、夕食食べないんですか〜?食べないと、過労死しますよ」
「過労死する程ヤワじゃねえよ」
「ですが副長、お休みになられた方がいいのでは?目の下に隈が出来ています」
「そうだぞ、トシ。せめて食事ぐらいしたらどうだ」
「いや、大丈夫だ。終わらせたい仕事もあるからな」
それだけを言うと土方さんは広間を去って行った。
目の下にはかなり濃ゆい隈が出来ていたけれども、どのくらい寝られていないのだろうか。
朝食も食べられていなかったし、お腹は空かれてないのだろうかと色々心配になってしまう。
食事を取らないと集中も出来ない、空腹は身体には良くない。
父様の言葉を思い出し、【要らない】と言われてしまうだろうけども、後でお部屋におにぎりか何かを持っていこうと決めた。
「今日は千尋くんが炊事当番だったのか!ならば、江戸の味付けだな。雪村君姉妹の味付けは懐かしい味付けだから、毎回楽しみなんだ」
「ありがとうございます、近藤さん」
私と千鶴の味付けは江戸の味付け。
なので、江戸出身の近藤さん達には好評であり、よく【美味しい】と言ってもらっている。
(土方さんも、仕事が忙しくなる前は【美味い】って言っててくれてたなぁ……)
そう思いながら、土方さんと相変わらずお部屋から出られない山南さんがいない夕食が始まったーー。
夕食が終わり、私は勝手場にて残っていた白米でおにぎりを作っていた。
味付けは塩で、付け添えでたくあんと今日作った煮物を小皿に入れる。
「あれ、千尋ちゃん何してるの?おにぎりなんか作って」
「土方さんに持っていこうと思いまして」
「ええ?食べないと思うよ、あの仕事人間な土方さん」
一緒に勝手場で後片付けをしていた沖田さんは、少し呆れたように溜息を吐く。
確かに食べてもらえないかもしれないけれども、持っていくだけ持っていこうと思う。
「そうかもしれませんが、食べてもらわないと……。身体を壊されてしまうので」
「意外とさ、千尋ちゃんってお節介焼き?」
「そうかもしれませんね」