第4章 動乱【土方歳三編】
「ああ……わかった」
土方さんの返事に八郎お兄さんは頷くと、すぐに笑みを浮かべてから私と千鶴の方へと身体を向けた。
「それじゃあ、千鶴ちゃんに千尋ちゃん。また、会いに来ますね」
「え……」
「あ、はい」
八郎お兄さんは笑みを深くさせるも、名残惜しそうにしながら帰途についたのだった。
その背中が遠くなるまで私達は見送り、八郎お兄さんの姿が完全に無くなった時、千鶴が私の着物の袖を引っ張る。
困惑したような、不思議そうな表情を浮かべている千鶴。
どうしたのだろうかと思いながら、千鶴の方を振り向いた。
「どうしたの、千鶴」
「あの方、本当に私たちの幼馴染……?」
「うん。小さい頃、よく来てたんだよ。最後に会ったのは小さい頃だったから……千鶴は覚えてないかもね。でも何時か、思い出すかも」
「そうかな……」
千鶴の様子に苦笑を浮かべながら、八郎お兄さんはまた来ると言っていたけれども何時来るのだろうと思いながら屯所へと入った。
その日の夕暮れ時。
今日の炊事当番は私と斎藤さんと沖田さんであり、私は味噌汁に入れる大根を一口大の大きさに切っていた。
「雪村。副長は今日、夕食は要らないらしいから副長の分は不要とのこと」
「え、またですか!?」
「ああ。お忙しいのだろう……あの池田屋事件からかなり慌ただしいからな」
「あの人、何時か過労死しそうじゃない?」
土方さんは池田屋事件からかなり忙しくされている。
お部屋で明け方までお仕事をされていて、食事を取られない事が多くなっていた。
(食べる暇が無いほど、忙しくされているのかな……)
でも、食事を取られないと身体を壊してしまう。
無理をすると人というのは意図も簡単に体が壊れてしまうと、父様から聞いていた。
だから食事を取ってほしい。
「……食事は、取ってほしいな」
「無理だと思うよ。前に千鶴ちゃんが食事運んで行って、僕が膳を回収しに行った時に一切、手をつけてなかったからね。【食べてください】って言っても聞かないよ、あの人は。頑固親父だよ本当に」
「総司、副長は頑固親父ではない」
「頑固親父だよ。あ、親父じゃなくて頑固おっさんかな?」
ケラケラと笑う沖田さんに苦笑を浮かべながらも、私は残りの食事を作り上げていった。
そして、私と斎藤さんと沖田さんは出来上がった夕食が乗ったお膳を運び出す。