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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第1章 始まり【共通物語】


その時、不意に影が差した。

「あ……」

私達の目の前に浅葱色の羽織と、漆黒の髪の毛をなびかせている男がいた。
その漆黒の髪に息を呑んでしまう。

きらきらと降り注ぐ月の光が雪を照らし、何故か舞い散る花びらを思い起こさせた。
そう、まるで狂い咲いた桜のようーー。

「運の無い奴らだ」

冷たい声音を吐く男は、私と千鶴へと刀の切っ先を向けている。
なのに、その男は私と千鶴を殺そうとしているのに、怒っているような困っているような感情で瞳を揺らしていた。

「いいか、逃げるなよ。背を向ければ斬る」

その言葉に私は小さく頷き、千鶴は何度も頷いていた。
すると彼は思いきり眉間に皺を寄せて、苦々しげに深いため息を吐いたのだ。

「え……?」
「え…」

男はあっさりと刀を納めたので、思わず腑抜けた声が出てしまった。
そして私も思わず親指を鍔から離してしまうが、彼の行動に驚いたのは私達だけじゃなかったらしい。

「あれ?いいんですか、土方さん。この子達、さっきの見ちゃったんですよ?」

さっきまで無邪気そうに話していた男が不思議そうに目を細めながら、土方と呼んだ人に声をかければ土方と呼ばれた人は更に渋い顔をした。

「……いちいち余計なことを喋るんじゃねぇよ。下手な話をきかせちまうと、始末せざるを得なくなるだろうが」

この人達の話を聞く限り、どうやらアレは見てはいけないものだったらしい。
しかも隠しておきたいもの、人に見られたくないものみたいだ。

「この子達を生かしておいても、厄介なことにしかならないと思いますけどね」

笑みを浮かべる男の言葉に、また親指の腹を鍔に添えてから警戒する。
もしかしたら、また刀を向けられるかもしれない。
そうなる前に千鶴だけは逃がしたい。

「とにかく殺せばいいってもんじゃねえだろ。……こいつの処分は帰ってから決める」
「俺は副長の判断に賛成です。ここに長く留まれば他の者に見つかるかもしれない」

そう言うと、一と呼ばれていた男はついでのような仕草で、自ら斬り殺した死体へと目を落とす。

「こうも血に狂うとは……やはり実務に使える代物ではないようです」
「……頭の痛ぇ話だ」

同じ浅葱色の羽織を身にまとった、倒れている者達を見る彼らの目には感情が宿っていなかった。
すると土方と呼ばれた男は不意に顔を顰め、他の二人を睨んだ。
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