第1章 始まり【共通物語】
すると、音に気が付いた浅葱色の羽織を赤く染めた男達はゆっくりとこちらへと振り返り、目が合った。
その瞬間背筋が凍りつき、彼らの目に震えてしまう。
目の前にいる人には思えない彼らは私達を見て、新たな獲物を見つけた歓喜に震えている。
「ーーっ!」
千鶴が息を飲んだ音が聞こえ、直ぐに逃げなければと脳が警鐘を鳴らした。
ここから逃げて千鶴を守らなければならない、千鶴を何か何でも守らなければと脳が未だに警鐘を鳴らしてくる。
「千鶴っ……!」
逃がさなければ、千鶴を。
そう思い声をかけた時には、彼らは狂ったように笑いながらこちらへと駆けて来ていた。
殺される。
このままでは、殺されてしまう。
そう思い私は千鶴を庇うように抱き締めて、目をぎゅっと瞑った時であった。
「え……?」
何かを斬り裂く音と、千鶴の声に私はゆっくりと目を開けてあの人ならざるものがいた方へと目を向ける。
するとそこには斬り捨てられている浪士がいて、血が飛び散っていた。
「あーあ、残念だな……」
この血塗れた場所とは似合わない、弾んだ声が聞こえてきた。
「僕一人で始末しちゃうつもりだったのに。一君、こんな時に限って仕事速いよね」
目の前に現れたのは浅葱色の羽織を身にまとった男。
その男は恨み言を言いながらも、とても楽しげに相変わらず声を弾まして微笑んでいた。
「俺は務めを果たすべく動いたまでだ。……あんたと違って、俺には戦闘狂の気は無い」
「うわ、ひどい言い草だなあ。まるで僕が戦闘狂みたいだ」
「……否定はしないのか」
一と呼ばれた男は呆れ混じりのため息を吐いて、視線を私と千鶴へと投げかけてくる。
「でもさ、あいつらがこの子達を殺しちゃうまで黙って見てれば、僕たちの手間も省けたんじゃないかな?」
無邪気そうに言葉を吐く男の言葉に、私と千鶴は追い込まれていることを理解した。
あの人ならざるもの達と同じ浅葱色の羽織を着ているのだがら、仲間かもしれない。
生唾を飲み込みながら、ゆっくりと親指の腹を鍔に添えて千鶴を自分の背後に隠す。
そして左手を伸ばして千鶴を守るように体制を変えた。
「さあな。……少なくとも、その判断は俺たちが下すべきものではない」
「え……?」
「まさか…」
一、と呼ばれていた男の言葉で理解した。
ここには他にも、浅葱色の羽織を着ている者がいるのだと。