第4章 動乱【土方歳三編】
その言葉に私は唇を噛み締めていれば、山崎さんは言葉を続けた。
「実際に突入した新選組の武勇は、無かったことにされかねない。だからこそ、副長は会津藩の介入を封じようとしてくれているのだ」
山崎さんの説明に、私は眉間に皺を寄せながら未だに土方さんの宣言でザワついている会津藩を見た。
あの時、土方さんが【先手を打つ】と言っていたのはこの事だったのだろう。
「し、しかし我々にも務めがーー」
「小せえ旅館に何十人も入るわけねえだろ。池田屋を取り囲むくらいが関の山だ。それとも乱戦に巻き込まれて死にてえというなら止めはしねえが、我が身が可愛いなら大人しくしとくんだな」
「ぐっ……」
鋭い土方さんの言葉は、お役人の反論の余地を与えない。
土方さんは戦っている新選組の方々の手柄を守る為、お役人から一歩も引かなかった。
そして、戦闘が完全に終わりを告げるまで、彼はお役人たちを池田屋へとは近付かせなかった。
夜も明ける頃。
池田屋に突入していた近藤さんが、白の隊服を血だらけに染めて出てきた。
「トシ」
「近藤さん、ご苦労だったな」
「トシもご苦労だった」
近藤さんと土方さんはお互いを労わっていた。
そんな姿を見ながら、私は近藤さんへと声をかける。
「あの、近藤さん!千鶴は!?」
池田屋付近に千鶴の姿がなかった。
もしかしたら、池田屋に居るのだろうかと思いながら尋ねる。
「千鶴君ならば、池田屋の中で総司と平助の応急処置をしてくれている」
「応急処置!?も、もしかしてお二人は怪我でも?」
「総司が血を吐き、平助は額を怪我しているんだ」
「そんな……わ、私も手伝ってきます!!」
千鶴が心配でもあったが、沖田さんと平助君の事も心配になり、慌てて池田屋へと入った時だ。
ぱしゃ……と足元で音がなり、恐る恐ると地面を見れば、そこは血の池が広がっていた。
「っ……!!あっ……、う」
噎せ返るほどの血の匂い。
周辺に倒れている血だらけの浪士達の遺体、血塗れの隊服を身にまとっている新選組の方々。
息が上がる。
目眩もして、吐き気もしてきて私は思わず手で口元を抑えた。
体は尋常じゃないぐらに震えていた時だった。
「千尋ちゃん、お前さんも来てたんだな……って、どうした!?顔真っ青じゃねぇか!」
「な、永倉さん……」
「大丈夫か?」
「あ、あの……千鶴は……」