第4章 動乱【土方歳三編】
駆け寄ってきたのは永倉さんで、私の顔を見るなり目を見開かせながら背中をさすってくれる。
それ程酷い顔色をしているのだろう。
「千鶴ちゃんなら二階にいるけど……お前さんは上がらない方がいいぜ。酷い顔色だ……まぁ、こんな所を見ればそうかもしれねえけど。取り敢えず、外に出るけど歩けるか?」
私が小さく頷けば、永倉さんは私を支えながら外に出してくれた。
でも、未だに身体の震えと吐き気や目眩が収まらずにいれば背後から声が聞こる。
「千尋!!」
「千鶴ちゃんか!千尋ちゃん、すげぇ顔色悪いんだが……」
駆け寄って来た千鶴は、直に私を抱き締めてくれる。
暖かい体温と、千鶴の緩やかな心臓の音に荒くなっていた息が徐々に戻っていく。
「大丈夫、大丈夫だから……」
「ごめ、ん……」
「大丈夫よ」
「千鶴ちゃん、千尋ちゃん大丈夫なのか?」
「実は、千尋は凄く血が苦手で……。たまに、あまりにも多い血が流れていたりするとこうなって」
私は幼い頃から血が苦手だ。
多量の血が流れているのを見れば、過呼吸のようなものをおこしたり吐き気や目眩も起きる。
新選組と出会ったあの時は、千鶴を守るのに必死で血への恐怖を忘れていたが、時折あの血の池を思い出しては震えていた。
「そうだったのか……」
「おいおい、千尋大丈夫か?顔色真っ青じゃねえか」
「左之、生きてたか」
「当たり前だろ?で、大丈夫なのかよ千尋は」
池田屋から出てきた原田さんも、心配そうに私の元に来てから背中をさすってくれる。
彼に背中をさすってもらったのはこれで二回目である。
「は、い……大丈夫です。ご心配をおかけしてごめんなさい……」
「無理、するんじゃねえよ。まだ顔色が真っ青だぜ、落ち着くまでゆっくりしてろ。撤収作業もまだかかるからな。千鶴、取り敢えず池田屋から少し離れた所で千尋を休ませてやってくれ。こいつ、屯所から走りっぱなしもあって疲れてるからな」
「は、はい!」
やっぱり血は苦手だ。
あの、嫌な記憶をどうしても思い出してしまうから。
そう思いながら私は、撤収作業をする新選組の方々の姿を眺めていた。